シルクちゃん&ランサー ◆ACfa2i33Dc




  表紙をもう一度よく眺めてみると、二匹の蛇が描かれているのに気がついた。
  一匹は明るく、一匹は暗く描かれ、それぞれ相手の尾を咬んで、楕円につながっていた。
  そしてその円の中に、一風変わった飾り文字で題名が記されていた。 

   はてしない物語 と。


                          ――ミヒャエル・エンデ作『はてしない物語』


                             ‡


【1】

 この街の端。絶対領域の境界線、隣街との境目に、一人の少女が住んでいる。
 少女の名前は誰も知らない。家の前には「奉野」という表札がかかっていたが、それが少女の本当の苗字なのか、そうだとしても下の名前は何なのかわかる者はいなかった。だからいつも被っているシルクハットから、周囲からは「シルクちゃん」と呼ばれていた。
 少女は一人だった。
 何故一人なのかは誰も知らない。もうずっと前からこの街に住んでいる――と思われていて、誰もその理由について無理解だった。
 他ならぬ、少女自身でさえ。


【2】

 ある日のこと。
 部屋の掃除をしていた少女は、本棚に見覚えのない本があることに気がついた。

「……『旅は続く 世界の謎その全てを解き明かすまで!』?」

 表紙にはそう印字されているだけ。装丁はあかがね色で布張り、中央に尾をくわえた蛇の紋章が捺されている。
 ただそれだけの、見知らぬはずの一冊。――だというのに、少女はその本に心を奪われていた。

(いや……違う。私はこの本を知っている)

 表紙を開く。
 熱に浮かされたように、少女は頁を一心に捲る。

【3】

 星の川。

【4】

 魔法使いの月の国。

【5】

 勇者と忘却の軍勢の戦いの記録。

【6】

 本の中で、少女の心は旅をした。
 長い長い旅をして、そうして、全てを思い出したのだ。

 ……けれどもこれは別の物語、いつかまた、別の時に話すことにしよう。

【7】

 その日から、少女の家の住人は二人――いや、三人になった。


                              ◆


                     ――忘却に抗う者は、愛する者を失う。


       だから少女が二度目の忘却に抗った時、少女はまた、それを「思い出す」という形で愛する者を失った。


                              ◆



 日が落ちる。
 30度傾いた夕日が街を照らして、黄昏た橙色へと染めていく。

 無機質なビルディング、乾いたアスファルト、点き始めた街灯。
 そしてそれらを一望する鉄塔。
 その上に一人、少女は佇んでいた。

「この街は知らない街だけど――私が憎んだあの国に、よく似ているよ」

 そう呟いて、少女は街を見下す(みおろす)。
 立ち並ぶビル。
 行き交うスーツ姿の灰色の人々。
 何処(いずこ)か知れない、忘却された街。
 その全てが、少女が生まれ育った国とよく似ていた。

「だから、聖杯戦争に勝ったなら……まずはこの街を焼いてしまおうと思う。あの国の奴らへの復讐の踏ん切りに」

 ――だから、少女は街を見下して(みくだして)いた。
 何もかもを忘却し、少女の愛する祖父を殺した『忘却の国』。
 その似姿であるこの街は、少女にとって憎しみを煽る対象でしかない。

 憎しみ。悲しみ。怒り。
 少女の瞳の構成要素はつまり、そういったマイナス要素の感情の塊である。
 どこにも行き場のない――それ故に、暴走するより他にない。

「私は聖杯を手に入れて、忘却王と忘却の国に復讐する」

 呟くような言葉と同時。
 少女の隣に、像が形となって結実した。

「――こんな所に居たか。探したぜ、マスターよ」

 現れたのは、額に鉢金、胴に数珠を巻いた、比較的軽装な東洋の武者姿の男。
 髪は白く、髭を生やした体格のいい初老だ。

「あまり我から離れるな。しつこく命令しても鹿角がうるさいんだが、あまり離れててもアイツ此度の主は我をないがしろにしてるのかって不機嫌になるからなあ」
「ランサー」

 ぼやくような初老の男――ランサーに、少女は、しかし目も向けずに告げる。

「そろそろ始めよう。時期から考えても、そろそろ本格的に聖杯戦争の始まる頃だ。
 久々に家族がいるような気分を味わえたから、感謝はするけれど」
「別にそういうつもりじゃなかったんだがなあ、我」

 ともかく、とランサーは少女を見て言った。

「我にも、鹿角にも願いのようなものはない。故にマスターの望みに異論はないが――いいのか、願いは『復讐』で」 

 少女の願いが、祖父を奪われた復讐ならば――逆に祖父を生き返らせ、もう一度やり直すという願いは持たないのか。
 そう言外に問うたランサーに、しかし少女は首を振る。

「もうやり直せない。爺ちゃんはあの街にはいないし――私の居場所もあの街にはなかった」

 空想を忘れた忘却の国に、空想の世界に生きる少女の居場所はない。
 それは祖父が生き返ったところで明らかなことで、何より少女には、今更――祖父と出会う、という想像/創造ができなかった。

 居場所がなく、過去も、未来も想像できない少女の願い。それは最早、破滅しかない。

「そうかよ。……まあ、二君ではあるが、主の命だ。三河の武士としちゃ、従うしかないわな」

 それを聞いたランサーは嘆息。そして、こう言った。

「本多・忠勝……その名の通り、主の命に従い、忠、勝つ。それが我の仕事だ」







【クラス】ランサー
【真名】本多・忠勝@境界線上のホライゾン
【パラメーター】
筋力B 耐久E 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具A
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
見切り:B
 敵の攻撃に対する学習能力。
 相手が同ランク以上の『宗和の心得』・あるいはそれに類するスキルまたは宝具を持たない限り、同じ敵の一回見た技に対して追加の回避判定を行う。
 但し、範囲攻撃や技術での回避が不可能な攻撃はこれに該当しない。
 本多・忠勝が生涯において参加した合戦は大小合わせて57回に及んだが、いずれの戦いにおいてもかすり傷一つ負わなかったと伝えられている。
 また、動きやすさを重視し軽装を好んだという。
無窮の武練:B
 東国無双。
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
【宝具】
『蜻蛉切』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:30人
 本多・忠勝が有する神格武装。穂先に乗ったトンボが両断されたことが名前の由来となっている。
 全長3.6メートル、40センチの刃を持ち、伸縮機構により最大6メートル~最短1メートルにまで長さを調節可能。

 神格武装としての能力は「穂先に映した対象の名前を結び、割断する」。
 能力を起動する際には「結べ、蜻蛉切」という掛け声を必要とする。
 通常駆動では30m射程内の物体や術式を結び割り、上位駆動では事象さえも結び割ることが可能。
 作中では上位駆動で「警備」や「方角」を割断している。

 非常に強力ではあるが、割断する物体が大きく、そして遠い対象であればあるほど魔力を消費する。
 上位駆動(規模の大きな割断の他、事象の割断を含む)に至っては、魔力が万全な状態であっても2、3回が限度だろう。

 更に、『クラスにより己の真名を隠している』存在であるサーヴァントに対しては、真名を知っている相手でない限り割断するのは『クラス名』に過ぎず、そのダメージは浅いものとなる。

『最早、分事無(もはや、わかたれることはなく)』
ランク:E 種別:対忠勝宝具 レンジ:- 最大補足:-
 本多家付き自動人形・三河自動人形統括――そして、本多・忠勝の亡くなった妻の指輪を魂の核に使用した自動人形である鹿角(かづの)が常に(勝手に)宝具でありサーヴァントとして現界している。
 自動人形である鹿角(ランサーの世界では、自動人形にも魂は存在するが)が一種のサーヴァントとして現界し、更にランサーの宝具と化している理由。
 それはランサーが生前、鹿角の魂の核である指輪をその死の直前に呑み込んだ事により、英霊としての情報に鹿角の情報が混入したこと。
 そしてマスターであるシルクちゃんが、『家族』に対して強い執着を持っていたことである。

 本来ならば少数ならば訓練された戦闘員の部隊に対しても時間稼ぎを行えるレベルの戦闘力を持つが、主である忠勝がランサーという従者の召喚には縁遠いクラスである事、あくまでランサーについてきた魂の一部でしかない事などから、その戦闘力は戦闘員としては期待できないレベルにまで低下している。
 自動人形の常として重力制御のスキルを持つが、戦闘に応用できるレベルではない。
 またこの宝具が破壊された場合、魂の繋がった存在であるランサーも大きなダメージを受ける。
【weapon】
『蜻蛉切』

【人物背景】
『境界線上のホライゾン』における、本多・忠勝の襲名者。
 妻は既に故人であり、本多・二代という娘を持つ。

 東国無双であり、その名にふさわしく豪放快活な性格だが非常に子どもっぽいところもある。
 しかし老いて尚その実力は健在で、聖連ですらその力を認め特殊予備役副長として認可している。

 松平・元信の命を受け鹿角と共に新・名古屋城内の地脈炉を暴走させ、三征西班牙から派遣されてきた八大竜王・立花・宗茂と相対し、これを退ける。
 その後鹿角の魂を宿した青珠と共に元信の元へ行き、妻の幻影と共にオーバーロードした地脈炉から放出される流体光に飲み込まれて消滅した。

 ――サーヴァントとしての願いは特に持たない英霊だが、それでもシルクちゃんに呼び出されたのは、愛する家族を失った(ランサーの場合は妻、シルクちゃんの場合は祖父)こと、そしてその存在が擬似的に蘇った事があるという縁に関係していると思われる。

【サーヴァントとしての願い】
 特にはない。



【マスター】
シルクちゃん@四月馬鹿達の宴

【マスターとしての願い】
復讐。

【weapon】
『魔法の羽ペン』
 物語世界をそうぞうした賢者マツリヤの羽ペン。
 物語に結末を付けるという力を持つ――が、物語の世界の外であるこの聖杯戦争ではある程度の神秘を持つだけの触媒でしかない。

【能力・技能】
『魔法』『そうぞう』
 頭の中に思い描くこと。
 既知の事柄をもとにして推し量ったり、現実にはありえないことを頭の中だけで思ったりすること。
『―していたよりずっと立派だ』『―がつく』

 それまでなかったものを初めてつくり出すこと。
『―力』
 神が万物をつくること。
『天地―』『―物』

 かつて賢者マツリヤは、一握りの砂から時と宇宙と星を創ったという。

 そのそうぞう領域から外れたこの聖杯戦争で、彼女が『魔法』を使えるかは定かではない。

【人物背景】
愛する祖父を殺された、どこにも行き場所のない少女。

【方針】
聖杯を手に入れる。

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Happy Birthday! シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝 000:前夜祭
003:【>願う 何を? >幸せ 何が君の幸せ?】

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最終更新:2015年05月30日 22:02