水銀燈&アーチャー  ◆epXa6dsSto


少女は成長する。
少女はいつか少女であることをやめてしまう。
いつの日かお人形遊びをやめて、扉の向こうに駆けていってしまう。
では、少女人形は――――?

  *  *  *  

少女が突然大人になるように、
その人形も突然に目醒めた。

精巧な長い睫毛にふちどられた紫の瞳が、
彼女を抱き上げている人間の瞳をまっすぐに射抜く。
彼女が只のお人形ではなく、“生きている”証左。
生きるべく、戦う意志を持つ存在である証左。

イヤダ、コノオニンギョウ、メダマガグラグラシテル。
ケッカンヒンダワ。ステナキャ、ダメネ。

偽りの主の耳障りな言葉が、覚醒をさらに促した。
伸ばされた手を払いのけ、ちいさな唇が傲岸な命令をつむぐ。


「アーチャー! 来なさい!」


――――。
白いフリルと黒いシルクが視界を覆う。


「護鬼剣゛妖(ごきげんよう)、ご主人様ァ!?」


NPCを引き離し、間に割って入ったのは黒い影。
鍛え抜かれた軍用ドーベルマンのような黒ずくめの少女だった。
170センチ前後の身長(タッパ)に、鴉の濡れ羽色のロングストレート。
顔の左半分は髪で隠れているが、目元は切れ長で凛々しい。
そして、まるでマスターと揃いで誂えたような――
繊細なレースに、ふんわり裾の膨らんだ黒のゴシックロリータドレス。

「アンタが妾(アタシ)のご主人様(マスター)か?
 人ん家荒らすのも佳くねェし――とりあえず場所移そうぜ」

目を白黒させているNPCの女にちらりと目をくれ、
ゴスロリのアーチャーは窓をからりと開け放った。
夜風がさあっと吹き込み、頬を撫でる。

サーヴァントが差しのべた手を、彼女は蹴った。
誇り高き薔薇乙女は、自分の力で飛べるのだ。




街の外れにある廃教会に、大小二つの影が舞い降りた。

聖杯戦争の参加者として目覚めた彼女――
人工精霊を従え、宙に浮かぶ薔薇乙女の第一ドール・水銀燈。
その傍らには、水銀燈自身をモデル等身に引き伸ばして、
翼をもぎ取り髪を黒くしたようなゴスロリサーヴァントが侍っている。

水銀燈は数時間前とは打って変わって、いまや本来の、
生き人形のごとくに豊かな表情を――糺し不機嫌極まりない面を――浮かべていた。
クリスマスに欲しくない玩具を貰ってしまった少女のような。
先程の人間を見つめたのと同じ瞳、即ち汚いものを見るような目で
自分にあてがわれたサーヴァントを眇める。

「E・E・E・E・C・D。……なにこれぇ? ゴミじゃない」
三騎士の一角を為すサーヴァントには有り得べからざる低ステータス。
何らかの嫌がらせが働いているとしか思えない。
陰湿な“根回し”。狡い“裏工作”。少女同士ではよくある事だ。

「徒花(ゴミ)とは言ってくれるじゃねェか……あァ?」
少女のサーヴァントが、不意に自分の頬に手をやる。
そこには淡く血がにじんでいた。

「怒っちゃダメよぉ。ちょっと挨拶しただけ。……サーヴァントのくせに、脆いのね」
「そっちから因縁(アヤ)つけてくるたァ佳い度胸じゃねェか。ルール解ってんのか?」
「勿論よ。貴女を殺したら、私の探している相手がノコノコ来るって事くらい……
 とっくに解ってるもの」

背に流れる麗しい銀の髪をかき分けて、禍々しい黒い翼が広がる。
同時に、アーチャーも主の意図を汲んで宝具開帳の詞を吐く。



「侵蝕(こ)いよォッ! エクスターミネーター(Bellis perennis L .)!!」

「ア゛アアアアアアあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁァァァァアアアア!!
 痛ってエエエエエエエエエエェェェぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」

少女の苦痛の雄叫びと共に、アーチャーの肉体が“変身”する。
「まずは、腕ぇッ! 肉と皮膚! 骨格も!」
血管は高圧線に、筋繊維はモーターやシリンダーに、骨は合金フレームに。
乙女の心音は、エンジンの轟駆動音に。
その姿はまるで人造人間(サイボーグ)のよう。

――レースを引き裂き、鋼鉄の銃身が姿を現した。
六本もの砲身を持つガトリング機関銃に変形した腕が、水銀燈に向けられる。
全長1メートル、重量であれば100キロに迫るであろう銃砲から、

「発射しなァ!」

ガガガガガガばりばりガガガばりばりばりガガガガガばりガガガガガガガガッ!!!

無数の金属塊が高速で群れを成して迫りくる。
風にさからわぬ羽毛のように、ふわりと高く浮いて躱しながら水銀燈は耳を塞ぐ仕草をした。
声に、駆動音に、銃声。このサーヴァントは、三重に煩い。

「エクスターミネーター、手を銃(チャカ)にッ!」

自らの宝具たる≪花≫の神秘で左手を拳銃に変異させたアーチャーが、鋼鉄の指で差す。
先端から、鋭く撃ち出される鋼鉄の弾。
魔力の光を曳く礫を水銀燈は飛翔して躱し、黒い羽根の返礼を見舞う。

アーチャーのドレスが破け、黒白の布切れが羽のように舞い散った。
裂け目からは傷ひとつ付いていない肌と、可愛いブラジャーが覗いている。
「よくも服破りやがったなァ!」
「欠陥サーヴァントの癖に色気づいてるのねぇ」
「るせェよ」

もう一発のおかわり弾も、水銀燈は飛んで躱した。



軽々とあしらっているように見えるが、
水銀燈の心の内には苛立ちの荊棘が蔓延っていた。

(めぐ……)

雪華綺晶に拐れた自分のマスターのことを思うと、平静では居られない。
めぐと雪華綺晶を追ってnのフィールドへ入りこんだ筈が、
なぜかアリスゲーム紛いにつきあわされる羽目になっている。

聖杯戦争のルールを理解した瞬間に、
まず浮かんだのはサーヴァントを殺めて雪華綺晶を釣り出す事だった。
しかし、思った以上に手間がかかる事にも気付いた。

稀代の人形師ローゼンにより造られたドール、薔薇乙女(ローゼンメイデン)。
錬金術で生成されたローザミスティカを魂の核にしている彼女たちは、
いわば存在自体が神秘の結晶。ゆえに、その攻撃にも神秘が宿る。
普通のサーヴァント相手なら通用しないだろうが――
魔力も対魔力スキルも貧弱な目の前のサーヴァントなら、ほんの僅か通るという事だ。

ちなみに、先程因縁を付けるのに使った羽根は
普通の相手なら顔に口が一つ増えている程度の力を込めて放った一撃だ。
それでも、かすり傷。

めぐへの負担を気にしながら力を小出しにしている事もあり、
己の力のみでサーヴァントを殺すのはやや苦しい。
ならば、ここは巧く騙して他のサーヴァントと戦わせて潰すか――。
もしくは、他のサーヴァントを失った参加者を庇護すると見せかけ手元に置いて
ルーラーの到来を待ち構えるのも手だろう。そこまで都合よく事態が転がることは中々無いだろうが。


再び、教会の伽藍にアーチャーの大音声が響く。

「侵(ヤ)れよォ再改造! 腕、刀剣(ヤッパ)に! 両脚、脚力上げェ!」

アーチャーは顔を苦痛に歪ませながら床を蹴った。
そして餌の小鳥を捕る肉食獣のように、黒翼の天使へ猛然と肉薄する。
改造の済んだ片目が、無慈悲な殺戮機械のように赤く瞬く。
比喩ではなく、今その眼球と視神経はまさに本物の機械と化していた。宝具の神秘に依って。
その不吉な色を水銀燈は見下し――――

「やぁめた」
「あァ?」

嫌みなほど怠惰な口調で、勝負を投げた。
肩を竦め、ゆっくりと高度を下げて、朽ちた祭壇の上にブーツの踵を乗せる。
祭壇に額ずくような位置に着地し、眉を上げるアーチャーだが
彼女も先刻の刃は水銀燈の腹部に突き立てる寸前で確りと止めていた。

「貴女を虐めたところで、力を持っていかれて疲れるのは結局私。バカバカしいわぁ」
クスクス笑いながら、媚びるように――馬鹿にするように小首を傾げる。
「怒らないでね、貴女の力を見ておきたかったのよ。マスターとして……ね」
「……本気(マジ)で言ってンのか、それ?」
アーチャーは宝具を解除し、元の色に戻った目で水銀燈を睨んだ。

力で勝るサーヴァントだろうと、怖くはない。
ファーストコンタクトでNPCや水銀燈を気づかうような素振りを見せたり、
先程の馴れ合いのような戦闘の最中でさえも
水銀燈を撃ち落とし痛めつけようとすれば余裕でできた筈なのに全くしなかった所を見ると、
おそらく根は可哀そうな程の善人なのだろう。
単純な性格も含め、利用し易そうな人となりで
弱点も顕かなサーヴァントを引き当てられた事はまずまずの僥倖か。


(せいぜい役に立ちなさい。
 私が魔力(ネジ)を流し(まい)てあげないと動けないお人形さぁん)

【クラス】
アーチャー

【真名】
瀬戸・多実華(せと・たみか)

【パラメーター】
筋力:E~B 耐久:E~B 敏捷:E~B 魔力:E 幸運:C 宝具:D

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:D
マスターを喪っても半日程度の現界が可能。

【保有スキル】
カリスマ:E
最大で10人前後の小集団に統率力・指揮能力を発揮する。

戦闘続行:A
腕が斬られようと首チョンパされようと
自己改造によって生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
五体パージ・爆破により、トカゲの尻尾切り戦法も可能。
ただし宝具に完全に依存するスキルのため、
≪花≫に指示するための声を封じられるなど
宝具が使えない状態に陥った場合このスキルは無効となる。

料理:D
家庭的でおいしいご飯が効率よく作れる。


【宝具】
『野菊の君』(エクスターミネーター)
ランク:D 種別:対軍 レンジ:1~10 最大捕捉:10

声により≪花≫(リリ/宝具)に指示を出し、自らの肉体に強化・改造を施す力。
宝具使用(自己の肉体改造)時には
「麻酔下手の歯医者さんに全身の肉と骨を削る手術をしてもらってるような激痛」が伴う。
この激痛に耐えられる無尽蔵の気力と根性によって、
無限に自己の肉体の「再生」「改造」「強化」が可能。
展開時はエンジンの駆動音がバリバリ響いてすごくうるさい。

具体的には筋力・耐久・敏捷をB相当まで押し上げることができる。
腕を重火器や鋼鉄の刃に変異させる・手の拳銃化・
血液と生体ホルモンをニトロ化して繰り出す「尼斗露拳(ニトロパンチ)」など多芸。
ボディを硬化させて防御、ダメージを再生修復する等、継戦能力にも優れる。
爆発ボルトを生成して四肢や頭部を自らパージし、致命的な攻撃を力技で回避する事も可能。


【weapon】
宝具エクスターミネーターにより、彼女の五体総てが武器と成り得る。
全身改造も可能だが、あまり好きではない。

【人物背景】
少女能力者≪花使い≫(リリス)を集めたバートネット女学院に所属する女生徒。
不良グループ「デイジーチェイン」のナンバー2。
仇名は「血塗れロリータ」「不死身のタミー様」「女鋼(じょこう)」「少女戦艦」等。
「いくら攻撃しても平気でこっちに向かってくる」(被害者談)。

スケ番のような喋りが特徴のゴスロリ不良女学生。齢十七。
義理堅く筋の通った、硬派で清(おんな)らしい性格。
強力な能力を持つ実妹を護る為に≪花使い≫になった「元・普通の人」。
素は大人しめのお姉さんで、妹の春歌を守る為に無理して怖いキャラと見た目を作っている。

実家は惣菜屋「デリカ・デイジー」。
両親は多額の借金を残して共に他界。彼女が惣菜を作って店と生活を支えていた。

【出典】
『百合×薔薇』2巻だけ読めばほぼ把握できる。


【マスター】
水銀燈@ローゼンメイデン

【マスターとしての願い】
ルーラー(雪華綺晶)から、めぐを取り戻す。

【weapon】
背中の黒い翼

【能力・技能】
他のドール達と違い、
契約をしていない人間からも魔力を奪うことが可能。

【人物背景】
原作第一期と二期の間。
めぐを雪華綺晶に奪われた後の時期から参戦。

【方針】
聖杯狙いを装いつつ、ルーラーとの接触が主目的。手段は問わない。
(※尚、ここのルーラーが水銀燈の探す雪華綺晶と同一である保証はない)


マスターの魔力は中々で、サーヴァントの燃費も良い。
反面、神秘のランクと対魔力が低いためキャスターとぶつかると危険。
決して強い主従ではないため、立ち回りに気を使う必要があるだろう。

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最終更新:2015年04月20日 21:09