ハンター&赤ずきん ◆Jnb5qDKD06
聖杯はあらゆるところから参加者を集める
異国から、異星から、異世界から、未来から、現在から、そして──過去から。
* * *
「お婆ちゃんの家に行かなきゃ 」
記憶が戻って最初に考えたのが、自分のするべきことだった。
現在地は街中から郊外の温泉街へと続く道路の上。道の両脇には木や花が生い茂っているが、自分の住んでいた黒い森に似て非なる場所だった。
私は確か……お婆ちゃんの家に行く途中で狼さんに寄り道を進められて森の奥まで入ったのだ。
「寄り道って何故かしちゃうのよね」
好奇心には逆らえない。森の奥にホイホイと入って行って、いつの間にか当たり前のようにこの街の郊外で花屋として過ごしていた。
どうやってここに来たのか全く覚えがないし、どうして花屋をしていたのか全く覚えがない。
とりあえず帰らなくてはと急いで街中まで来たはいいものの──
「ここ、どこだろう」
見たことない景色だった。
まず建物が異常で、煉瓦や藁を使っていない。灯りも火ではなく電気と呼ばれものを使っていた。
舗装された道が縦横無尽に広がり、馬車ではなく車(何故か知識がある)が行き交っている。
全く未知の方法で出来ている街。
夢見ていたメルヘンの世界とは全く違う、されど幻想的な世界。
何もかもが奇天烈で、少女にとっては新天地と呼ぶ他ない。
「あら? あなた。もしかしてマスター?」
話しかけられた。声のする方を向くとそこには自分と同じ年頃の少女と────顔に包帯を巻いた男が立っていた。
途端に情報が堰を切ったように少女の脳内に溢れる。
「聖杯戦争……架空の街……脱出不可……サーヴァント……殺し合い」
ぶつぶつと呟き出した少女を見て男を引き連れた少女は合点がいったとにんまり笑う。
「あ、ラッキー。貴女は目覚めたてね。やっちゃってアサシン」
「やれやれ、少女ばかり襲うのは気が進まないね」
言葉とは裏腹に狼のような笑みを浮かべる男、その全身からバキバキと小枝をへし折るような音が鳴る。
獣毛が全身から生え、爪と牙が伸び、男の体躯がみるみるうちに大きくなる。
僅か一秒経たないうちに恐ろしい獣の姿がそこにあった。
常人であれば、恐怖のあまり気絶してもおかしくないだろう。無垢な少女であれば尚更だ。
しかし、その姿を見て少女が口にしたのはこうだった。
「何でそんなにお口が大きいの?」
あまりにも場違いな質問に男は一瞬、呆然とし次にこう考えた。
男は今や恐ろしき獣であった。
狼など目ではない大きさだ。
狼など目ではない牙と爪だ。
故にどんなものであれ、本能的な恐怖や危機感などの動きがなければおかしいのだ。
だからこそ、自然体で質問する少女の頭のネジがどっか行ったのだろうと断ずる。
この少女は現実うまく認識できない頭の持ち主らしい。それとも恐怖のあまり狂ったか。まぁいいさ答えてやろう。
「お前を上手に食うためさ」
少女のサーヴァントはまだ駆けつけない。
合流されれば身体能力の高いアサシンといえど苦戦するかもしれない。
ならば早々に終わらせようと獣は乱杭歯だらけの口を開いた。
「変な子。赤い頭巾被ってて、そんな質問するなんてまるで赤ずきんみたい」
「だったらなおのこと、獣に食われてなんぼだろ」
血走った目が少女を捉え、口から吐かれた生臭い湿った息が少女の顔にかかった。
そして、迫る恐ろしい獣の牙。
速度は音速。威力は必殺。
赤ずきんにこれを躱す術はない。
しかし。
しかし、しかし。
「え!」
「何?」
「あら?」
三者が声を上げた。
質は違えど、端を発した原因は全員ともこの場に現れた乱入者だ。
牙が立ったのは木の楯の上。貫通して乱入者の顔の皮膚を少し削る程度で収まっている。
さぁ、恐怖せよアサシンとそのマスターよ。
赤ずきんを救う狩人がここにいる。
恐ろしい獣を狩る者がここにいる。
マスターを守る英霊がここにいる。
エクストラクラス『猟兵(ハンター)』のサーヴァントがここにいる。
ジェスチャー:確かな意思
もう安心しろと無言で意思を伝える狩人。
顔は帽子とコートで目元以外を覆っているためよくわからない。
分かるのは褐色の肌、白い髪の毛、赤い瞳だけで男か女かも判別つかない。
しかし獣の主は敵のステータスを見てほくそ笑んだ。
「それが貴女のサーヴァントね。
なぁんだ私のアサシンより全然弱いじゃない。アサシン、やっちゃって!」
「おう!」
呼応と共に放たれる獣の第二撃目はダブル・スレッジ・ハンマー。
あの重量と筋力から放たれれば木の楯ごと木端微塵になるだろう。
しかも避ければ、その背後のマスターがミンチになる距離だ。
狩人は避けられない。赤ずきんの少女に令呪を使う機転はまだない。
死の鉄槌を避けるには条理をねじ曲げる事象が必要で、それを為すのは英霊の宝具を除いて他にない。それが狙いだ。
「使えば宝具の露呈、使わなければ死。前者の方がマシだろう。さあ使えよ。」
主に替わって言葉を吐き出す獣。
狩人が宝具を開帳させた瞬間、その内容を確認後に撤退する。
言うなれば情報収集だ。聖杯戦争開始前に本気の戦闘をやるつもりはない。
無論、アサシンは煽っているが宝具とは切り札だ。
攻撃的な宝具であれば物によっては一撃でサーヴァントを葬るだろう。
しかし、この状況で破壊力特化の宝具は使えなかった。
破壊のエネルギーをまき散らすような宝具を出せばその余波で赤ずきんの少女は消し飛ぶだろう。
仮に心臓を穿つ槍、一撃で内臓を奪い去るメスのような局所に致命傷を与える宝具では既に放たれている獣の攻撃は止められない。
なぜならば獣を滅ぼせても、死体が消えるまでのラグが存在する。
獣を屠った直後に迫る鉄槌はマスターとそのサーヴァントを確実に潰す。
故に防御、もしくは攻撃を相殺するような何かで対抗しなくてはならない。
そのどちらも獣にとっては有利であり、絶対的優位に立つという狩人のお株を獣は奪っていた。
しかし、狩人が取った行動は獣とその主の想像を超えて更に悪手だった。
木の楯を捨てて、後ろを振り向き、赤ずきんの少女を抱きすくめて持ち上げたのだ。
「わぁ!」
突如の抱擁に驚く少女。
彼女のサーヴァントの手は塞がり、少女一人を持った状態ではまともな行動などできるはずがない。
「終わりだな」
「終わりね」
落胆に近い感情を込めて敵の主従が終焉を告げる。
まさか宝具が使えない? それとも心中を図ったのか。
馬鹿な奴、外れサーヴァント、塵めと心底侮蔑しながら嘲笑った。
赤ずきんとその少女を圧潰する死の鉄槌が迫る。
確かに狩人の取った選択は悪手だ── 一見すれば。
アサシンとそのマスターは狩りの大原則を忘れている。
獣と真正面から対峙する狩人などほとんどいない。必ず裏を取る。
事実、獣の二撃目はアスファルトの道路にクレーターを作るが、サーヴァントにも赤ずきんにも当たらなかった。
霞のようにサーヴァントと赤ずきんの少女は消え、想定外の事態に獣とその主は困惑した。
「え?」
間の抜けた声の主は獣か、それともその主か。
どちらが言ったにせよ、彼女達には何が起きたのか分からない。
令呪を使わせる暇は与えなかった。
空間転移の魔術──は輪をかけてあり得ない。
マスターの権限で相手のサーヴァントのステータスが見えるが、あのサーヴァントのステータスは間違いなく直接戦闘向きだ。
宝具を使った? 真名解放もせずに? 空間転移という魔法スレスレの事象を?
* * *
アサシンとそのマスターが知る由も無いことだが、ハンターの世界の回避技術には『加速』というものがある。
『加速』はその名の通り高速の回避……などという半端なものではなく、空間跳躍の一種だ。極東では『縮地』と呼ばれるスキルに近い。
無論、サーヴァントとはいえ使える者はその技術を生涯使ったような極一部の英霊だけであり、今回の彼で言うと使えない。
しかし、何事にも例外というのは存在する。
彼の持つアイテム……魔術世界における魔術礼装『古い狩人の遺骨』はかつて『加速』を極めた狩人の骨だ。
これに魔力を籠めれば刹那の間、短距離の『加速』を実行する。
「わぁ………きれい」
赤ずきんの少女は刹那の跳躍の間、感嘆の声をあげた。
体の重さが消えて、羽のように軽くなった。
光の玉の中を駆け抜ける光景はまるで天の川を泳ぐように感じた。
* * *
狩人と赤ずきんは獣のマスターである少女の背後に立った。
少女は消えた赤ずきん達を探して左右に顔を向けていた。
無防備な少女の背後に近付く狩人。
何をするかというのは愚問だろう。サーヴァントのやることなどたったの一つ。
一切の躊躇なく、背後から少女の胸を貫手で刺し貫き、そのまま相手の心臓から左脇を素手で切断した。
マスターの異常を感知してアサシンが振り向くがもう遅い。
内臓攻撃を受けて少女の心臓と巻き込まれた肋骨や別の臓器が地面に転がる。
勿論、アサシンのマスターは即死だ。魔力供給の切れたアサシンもそれにより消滅するだろう。
だが、獣(アサシン)のサーヴァントは最後まで獣だった。
「ウオオオオオオオォ!」
瀕死の獣ほど油断ならない。
敵を仕留めた瞬間の間隙を狙った一撃。
最後の力を振り絞り、空を跳躍し、落下と同時に剛腕を振る。
アサシンの持てる魔力を最大まで注ぎ込んだ一撃は落下と同時に魔力の轟風と爆雷を生むだろう。
狩人は『古い狩人の遺骨』を使うが、移動距離が短い。
範囲内というより自分の落下先に出てきた狩人を見て獣は必殺を確信した───現れた狩人が『大砲』を構えているのをを見るまでは。
そう、狩人は回避ではなく迎撃のために移動したのだ。
ここに本当の敗北が確定する。
「死ね死ね死ねェ!」
絶望と憎悪をあらん限り罵倒に乗せて最期まで呪詛を振りまくアサシン。
狩人の大砲が発射され着弾の爆発が消えたころにはアサシンはこの世から消失していた。
ジェスチャー:快心
ガッツポーズを取り、喜びをあらわにする赤ずきんのサーヴァント。
赤ずきんも真似して快心のガッツポーズを取る。
「あなたが私のサーヴァントさん?」
ジェスチャー:狩人の一礼
「そう、よろしくね狩人さん。私の名前はバレッタ」
ジェスチャー:喜び
斯くして一組の主従が消失し、一組の主従が誕生した。
──赤ずきんの長い聖杯戦争(ヨリミチ)が始まる。
【サーヴァント】狩人@Bloodborne主人公
【クラス】ハンター
【真名】無名
【属性】秩序・悪
【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:E 幸運:D 宝具:A+
【クラススキル】
気配遮断:A
ハンターのクラス別スキル。
サーヴァントの気配を消す能力。
体術で完全に気配を断てば発見はほぼ不可能。
攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
道具作成:-
ハンターのクラス別スキル。
既存のアイテムを合成させて武具や道具を作るのは狩人の嗜みである。
このスキルは宝具『狩人の夢、夜は未だ終わらない』により失われている
【保有スキル】
心眼(真):B
狩人の経験で練り上げた洞察能力。
いかなる窮地においても戦況から活路を見出す。
破壊工作:C
戦闘前の段階で既に相手の戦力を削るスキル。
ハンターの場合は不意討ちの成功判定と不意討ち成功時の攻撃によるダメージにプラス補正が入る。
リゲイン:D ~ B
相手にダメージを与えることで肉体の治癒を行うスキル。
治癒できるのは真新しい外傷のみで時間の経った傷、病、精神ダメージなどは癒せない。
ハンターの場合は使う武具によって治癒の量が変動する。
【宝具】
『狩人の夢、夜は未だ終わらない』(ドリームランド=ゲールマンズハウス)
ランク:B+ 種別:結界宝具 レンジ:2 最大捕捉:4人
専用のランプを地面に突き刺すことで異相空間に己の工房へ転移できる宝具。
工房内部には道具と武器の保管箱、空間転移の門が存在する。
転移できる場所はランプを突き刺した場所に固定されており突き刺したランプは動かすことができない。
『共鳴する不吉な鐘、狩人の時間だ』(レゾナントベル・メルゴー)
ランク:D 種別:対人(自身)宝具 レンジ:一人 最大捕捉:-
鳴らすことでサーヴァントが二体以上いる場にマスター共々乱入できる鐘の宝具。
乱入時は一定時間ハンターの気配遮断は機能せず、また乱入された側はハンターが来たことを知覚できる。
『蒼褪めた血、幼年期のは始まった』(ブラッドボーン・トゥメル=イル)
ランク:A+ 種別:対人(自分)宝具 レンジ:一人 最大捕捉:-
全ての宝具、スキル、道具の恩恵を封印することで発動可能となるハンターの最終宝具。
上位者と呼ばれる魔天の一角、邪神の一柱へと変生する。
体躯は全長5メートルほど。見た目は観測者の精神が常人であるほどおぞましく見える。
もしも精神薄弱な者がこれを見た場合はEランク相当の精神汚染に侵される。
ステータスとしては幸運を除く全ステータスが2ランクアップし、血液の一滴がマナの塊に等しいため莫大な魔力を生産可能。
だが、彼に魔術は使えないため高圧縮した魔力や呪詛化した血液による砲撃と爆撃を行う。
能力はAランクの『神性』と『狩人の夢、夜は未だ終わらない』で作った工房を固有結界として展開する権能を獲得する。
また、人間に己の血を飲ませることであらゆる傷と病を癒すが、己と同じ『邪神になる可能性を持つ狩人』に変える。
【weapon】
【右手武器】
ノコギリ鉈
リゲイン量D、破壊力Dの鋸刃の鉈。
仕掛けで射程が延びる。
獣狩りの斧
リゲイン量Cの斧。破壊力Cの斧。
通常時は片手斧。
仕掛けで両手斧に変型する。
ルドヴィークの聖剣
リゲイン量D、破壊力Bの聖剣。
通常時は片手剣で供給された魔力量次第で威力が増える。
仕掛けで両手用の大型聖剣になる。
葬送の刃
リゲイン量B、破壊力Dの鎌。
通常時は片手に鎌の刃を持って戦う。
仕掛けで柄と結合させ射程の長い大鎌になる。
【左手武器】
獣狩りの散弾銃
- 水銀もしくは己の魔力(けつえき)を大幅に消費することで弾頭が賄える。
大砲
木の盾
気休め程度の木の盾。
牽制程度の飛び道具ならば防ぐが高威力の攻撃は防ぎきれない。
火炎放射器
ヒャッハー! 獣は消毒だぁ!!
赤ずきんにあげたようだ。
【道具】
古狩人の遺骨
刹那の空間転移を可能とするが水銀を消費する
祭祀者の骨の刃
斬り付けた対象を前後不覚に陥らせ、同士討ちさせる。
赤ずきんに一つ上げたようだ。
雷光ヤスリ
武器に雷と光の属性をエンチャントさせる。
【人物背景】
病と医療と獣の都市『ヤーナム』にて行われた邪神降臨実験を解決した狩人。
古狩人、暴獣、聖獣、異星獣、夢魔、邪神を狩り尽くし、最後は邪神そのものとなった名も無き男。
英雄でも反英雄でも人でも神でも魔でも獣でもないため規格外クラスのハンターとなった。
伝承では寡黙な男とされ、コミュニケーションは一、二言ほど呟くか、ジェスチャーを用いたらしい。
※人形による強化、武器強化、カレル文字は封印で参戦。
【サーヴァントとしての願い】
この聖杯戦争(ユメ)を終わらせたい。
【マスター】
赤ずきんのバレッタ@グリム傑作童話集. 上
【マスターとしての願い】
お婆ちゃんのところに帰りたい
【weapon】
サーヴァントから貰ったナイフと火炎放射器。
【能力・技能】
人を疑わない少女独特の純心さ。
また、グリム童話の人物なだけあって恐怖と発狂に規格外の耐性を持つ。
戦闘能力はない。ダークストーカー? なんのことだ。
【人物背景】
グリム童話に登場する赤ずきん。
赤ずきんとは狼に騙されて道草を食い、その間、狼にお祖母さんが食べられ、自分も狼に食べられるという道草に警句を鳴らす物語。
彼女は寄り道の途中で聖杯戦争に吸い込まれたようだ。
ある種サーヴァントともいえる出演者だが、見掛け通りの少女であり、特別な術技・能力はない。
16世紀からやって来た彼女にとってはこの街も人も未来であり、何もかもが珍しいため好奇心をそそられている。
この好奇心の強さと純粋さこそが、童話で彼女が騙されて寄り道してしまう原因である。
しかし、同時に幼い少女独特の美徳でもあるため誰もが守ってあげたいと思うのだ。
【方針】
架空の街観光して帰る。
最終更新:2015年04月27日 06:13