ペッシの奇妙なネットラジオまとめ@wiki

ケイドロ

作:歌詞主 絵:絵の人

目次 【第1章】 【第2章】 【第3章】 【第4章

第1章

 キーンコーンカーンコーン
 2時間目、終業のベルが鳴り響く。
 これから20分の休憩時間が始まる。
 そのため、ペッシのクラスの面々はグラウンドに集合した。
 理由は簡単、ケイドロで遊ぶためだ。
 ケイドロ、地方によってはドロケイやその他の名前がついていることもあるが、ルールは基本変わらない。
 1、警察チームと泥棒チームに分かれる。
 2、泥棒チームが逃げ始めて30秒後に警察チームが動き出す。
 3、警察は泥棒にタッチすればその人を牢屋に送れる。牢屋にはタッチした人が連れてゆく。
 4、牢屋は目立つところにつくり、囚われた泥棒はそこから離れることができない。
 5、牢屋に入っていない泥棒が入っている泥棒にタッチすれば、牢屋から出すことができる。
 6、警察は全員を捕まえれば、泥棒は時間まで逃げ切れば勝ちとなる。
 これが基本ルールだ。
 しかし、近年は携帯電話の普及によりチーム内の連絡がとりやすくなっている。
 そこで彼らはこんな特別ルールを設けた。
 7、チーム外の人同士の電話はなし。
 8、チーム内でも泥棒の場合は牢屋に入っていない人同士だけ会話が可能で、牢屋に入ってる人は電話がかかってきたら電話を取らずにすぐに切る。
 以上だ。
 このルールに乗っ取り、彼らはほぼ毎日遊んでいる。
 時間はもちろん20分、ロスを減らすためにチーム分けは事前に決めてある。
 今日のチームはこうだ。

 警察チーム
 痒い   女 砂さん親衛隊隊員
 ペッシ  男
 ゴクリ  女 砂さん親衛隊隊員
 ピザラ  女 剣道部
 アナ   男 帰国子女 演劇部
 ぬめぬめ 女 演劇部
 お粥   女
 絵の人  女 双子
 絵の人  男 双子
 さらし  女
 パイン  女
 おにちく 女

 泥棒チーム
 かまぼこ 女 砂さん親衛隊会長
 砂女   女 生徒会長
 体育祭  男 野球部
 ドキ豆  女 美術部員
 山芋   女
 kys  女 文芸部
 ハイ   男 演劇部部長
 桃    女
 鴉片   女
 ボコ   女
 千切り  女

 12人 対 11人
 20分のサバイバルが始まった。

 キメラ学園のグラウンドは広い。
 東西に伸びるサッカーコートが2つは入りそうな砂地に加え、北には木々が生い茂る林、林の中心には噴水やベンチのあるいこいの広場。
 他にも砂地の周りに鉄棒や砂場があり、西側には部室棟、南西に体育館が存在する。
 建物に入るのは反則だが、砂地と反対側の部分は木々が生い茂っており、身を隠しやすい。
 砂地の北東には野球のバックネットが設置されており、その奥にはテニスコートや武道場もある。
 ちなみに牢屋は砂地の西側にあるサッカーゴールだ。
 スタートの掛け声と共に泥棒チームは散開し、警察チームはカウントダウンを開始した。
 複数で隠れる者、単独で逃げる者、各々が作戦を立てつつ、泥棒チームは警察チームの視界から消えて行った。
 一人の例外を除いて。

 30秒が経過した。
 ようやく警察チームが動き出し、ゲーム開始となる。
 その直前、警察チームのペッシがお粥とぬめぬめに声をかける。
「とりあえず、あのバカをさっさと捕まえよう」
「そうね」
「了解」
 ペッシの言葉に二人も同意する。
 ペッシが指差す先はバックネット。
 その頂には一人の男が立っていた。

 野球のバックネットは、両端と上の部分がホームベースを包むような形に曲がっている。
 それでも高さは3メートルを超える、そこに男は立っていた。
 学ランの前のボタンは止めず、マントのように風になびいており、その中からは赤いTシャツが見え隠れしている。
 体つきは見た目は細いが、貧弱なイメージはなく、端正な顔立ちからはスポーツマンであることが伺える。
 その男の下にペッシ達3人がやってきた。
 ペッシが下から声をかける。
「おーい、体育祭~。捕まえにきたぞー」
 遊びだとしても何とも緊張感の無い台詞だ。
 しかし、バックネットを中心に前、左右後ろを囲まれている体育祭はすでに逃げ場が無い。
 だが、体育祭は怯むどころか胸をはり、頂から言い放つ。
「昇れ鯉よ天高く、例えその身が朽ちるとも、勝利味わうその日まで、我が魂を乗せて飛べ」
 そして体育祭は下から見上げるペッシに挑発じみた手招きをする。
「はぁ、めんどくせーなー」
 ペッシの声を合図にしたように、バックネットの裏に回っていたお粥とぬめぬめが両端からフェンスを登り始める。
 ペッシも後を追うように裏に回り、中央からフェンスを登る。
 じりじりと迫りくる3人。
 ちなみに、このケイドロに対する参加者の意気込みは一人を除き、本気である。
 ゆえに―― 一部の人間には非常に残念なことに ――女子生徒の参加者は全員が動きにくいスカートを選ばず、ズボンで参戦している。
 なので下からの眺めは面白みのかけらも無いが、上から見てる体育祭からすると三方向からよじ登ってくる3人はこれ以上無い威圧を放っている。
 両端のお粥とぬめぬめが頂近くの曲がっている部分に到着し立ち上がり、ペッシもそこに手を掛けた。
 多少の時間を要したが、ようやく体育祭を追い詰めた。
 しかし、そんな苦労をあざ笑うかのように体育祭が口元を歪める。
 次の瞬間、体育祭は足を曲げて背後に反るように飛び上がった。
 3メートル下の地面に頭から吸い込まれるように落下する体育祭。
 3人が唖然とした表情で眺めていると、体育祭は空中で一回転を決め、見事砂地に着地した。
「それじゃ、気をつけて降りろよ!」
 体育祭はそんな言葉を残し、林のほうへ消えていった。
 当然、バックネットを登りきってしまった3人は降りるのにも一苦労を強いられることとなった。
 こうして、20分に渡る戦いの幕があけた。

逮捕者:なし
未逮捕者:かまぼこ、砂女、体育祭、ドキ豆、山芋、kys、ハイ、桃、鴉片、ボコ、千切り
残り11人

第2章

「はぁ、かったるいわね……」
 部室棟の裏、手入れされずに成長を続けたつつじの木の陰にその少女は隠れている。
 線が細く、身なりも小さいので、それほど大きくもない木の影でもきれいに隠れることができている。
 しかし、小柄で学校指定のジャージに身を包んでいるにもかかわらず、ため息をつくその姿は大人びた印象を受ける。
 鴉片。あまり学校に登校してこない世間的に言うと不登校児の彼女がこのケイドロに参加しているのは、まったくの偶然だった。
 追試だけでも受けろと担任に呼び出され、登校したところをクラスの面々に捕まったのだ。ジャージも借りた。
「さっさと捕まった方が楽かしら……」
 そう呟いて、すぐにかぶりを振る。
 わざとであっても捕まるのはプライドが許さない。
 そんな時、落ち葉を踏んで近づいてくる足音が林の方から聞こえた。
 こんな、木々がうっそうと茂るだけの場所に来る者など、ケイドロ参加者以外考えられない。
 段々と近づいてくる足音。鴉片は体を丸めて息を潜める。
 足音は離れたり近づいたりを繰り返し、それに合わせて木々が騒ぐ音がする。
(何かを探している……つまり、警察チームの誰か……?)
 鴉片のその想像は的中していた。
 パインが辺りを探しているのだ。
 蛇行しながらも近づいてくる足音に、鴉片はますます体をこわばらせる。
 もう間も無く鴉片が隠れているつつじを調べる、その時。
 パインが来た方向から声が聞こえた。
「パインさん、すみませんが手伝ってもらえますか」
 少年の声がパインを呼び止めた。
 絵の人(弟)だった。
「ん、わかった」
 端的に返事を返し、パインは鴉片が隠れている場所から離れていった。
 窮地を脱した鴉片は安堵のため息を1つつき、小声で呟いた。
「まぁ、ずっとここに隠れてればいいわよね」
 そして、鴉片は座る体勢を変えた。

 双子と言うのは不思議なものだ。
 遠く離れていても互いの感情を感じ取ったり、片方が怪我をしたらもう片方も同じところにみみずばれができたりすることがあるらしい。
 そんな双子の片方、絵の人(姉)は林を捜索している。
 落ち葉のじゅうたんを踏みしめながら、怪しいところを丁寧に捜索している。
 すると、低木の集まりの影に不自然な青色を見つけた。
 誰かの服の色だ。
 ゆっくりと近づいていくと、低木が揺れ、声が聞こえた。
「まずい、見つかった!」
 そういうと低木から3人の女子の影がはじける様に逃げていった。
「あ、まて!」
 絵の人(姉)も慌てて3人を追いかける。
 逃げる3人はいつも一緒にいる3人組、桃、ボコ、千切りだった。
「相手は一人だ、皆ばらけよう!」
 走りながら桃が提案する。
「あいあいよー」
「わかった!」
 千切りは走りながらも緊張感のない返事を返し、ボコも提案に同意する。
 その会話を聞きながら、絵の人(姉)も考える。
(仕方ない、誰か一人に狙いを絞って……)
 そして、3人組が散開しようとしたその時、3人組が逃げている方向から、2人の影が走ってきた。
「姉さんは千切りさんを!」
 自分を姉さんと呼ぶのはこの世界のどこを探しても1人しかいない。自分の双子の弟だ。
 もう1つの影はパインだろうか、3人を見つけるとすぐに三角形に囲むように2つの影は分かれた。
「弟くん。うん、わかった!」
 挟み撃ちにされ、人数も自分達と同数になられて混乱した3人組は、散開したがすぐに捕まってしまった。

 ため息をつく3人を牢屋に連れてゆく道中、姉が弟に言う。
「いいところに来てくれて助かったよ」
 弟はそれに不思議な答えを返す。
「姉さんが3人ぐらいを追いかけてる気がしたんだよ」
 姉はその答えに驚くこともなく、優しく笑った。
 不思議な双子によって、泥棒チームは早くも3人が捕まった。

 生徒会長の砂女。
 全校生徒から羨望と友好の目で見られる彼女。
 そんな彼女を、とある変質者から守るために結成された部隊。砂さん親衛隊。
 女性のみで結成されたこの部隊の隊長であるかまぼこが、体育館と校舎の間を警戒しながら歩いている。守るべき会長と共に。
「そんなに辺りを見回さなくても大丈夫だろう?」
 男性じみた口調で砂女が聞く。
「いえ、柱や物陰に相手が隠れていないとは限りませんから」
 こんなゲームの間もかまぼこは守ることに全力を尽くしていた。
「そうか。ありがとう」
「いえ」
 こんな事務的な会話でも、二人の間の信頼関係はしっかりと伝わってくる。
 そんな二人が道の真ん中まで来たとき、進行方向に一人の人影が現れた。
 それが警察チームであると判断した二人は今来た道を振り返る。
 その入り口にも、すでに一人の影があった。
「まずい! 挟み撃ち!?」
 かまぼこが叫ぶ。
 南北に伸びる建物の間の一本道。
 その両方の出口に警察チームが立っていた。
 ゆっくりと近づいてくる二人、それは本来ならば砂女を守るはずの親衛隊員、痒いとゴクリだった。
「君達か……」
 砂女が目を細める。
「すみません会長、隊長。今はあなた方を捕まえることが任務ですので」
 南から来る痒いが言う。そして、北から来るゴクリがそれに続ける。
「なので少し作戦を立てさせていただきました」
 ゴクリは親衛隊を軍隊とするなら軍師のような存在だった。
 そして痒いは実働部隊。
 味方なら心強いが、敵にまわるとなるとこれほど厄介な相手もいない。
 実際に、今も彼女達の作戦に完全にはまっていた。
 しかし、慌てる風もなく砂女は言う。
「もちろん、構わないよ。けど……」
 それにかまぼこが続ける。
「そう簡単には捕まらないわよ!」
 そう発すると同時に、二人は南側、痒いがいる方に走り出した。
 グラウンドに出るよりは他の敵に見つかる可能性が少ない。
 北側のゴクリも二人を走って追いかける。
 痒いはその場でとまり、ゴールキーパーのように両手を広げる。
(警察一人で二人同時に捕まえることは可能。しかし、そんなことを易々と許す二人じゃない……)
 痒いはそう考え、的を絞った。
 砂女に。
 親衛隊に守られているので、か弱いイメージがあるがそんなことは全くなく、むしろ砂女こそが一番厄介な相手だった。
 文武両道を体現したかのような人なのである。
 そんな痒いの狙いを読んだのか、向かってくるかまぼこが言う。
「この私がいるのを忘れてない?」
「いえ、しかし私が会長を狙うのを隊長に止めることはできない」
 痒いの言葉を聴いて、かまぼこはニヤリと笑って、言った。
「それはどうかしら? いい? 守るっていうのはね……」
 かまぼこが一気に加速して近づいてきた。
 痒いが目を見開いている間に懐に飛び込んだかまぼこは、痒いの手首を左手で掴んだ。
 足をかける程度ならまだしも、投げ飛ばすなどの行為は反則とされている。
 そうはわかっていても危険を感じた痒いは身を固める。
 しかし、やってきたのは、ただのやわらかい感触だ。手のひらに。
 かまぼこが右手を痒いの手のひらに当てているのだ。
「な……?」
「守るっていうのは、眼前の危険を除去することよ」
 強制的とはいえ、痒いは手のひらでかまぼこに触れている。
 つまり、タッチしたと言うこと。
 警察はタッチした場合、その相手を牢屋まで連れて行かなければならない。
 と、言うことは痒いは砂女を追いかけることができなくなったのだ。
「わかった?」
 目の前で笑うかまぼこ。
 見事に策にはまり、愕然とする痒いの横を砂女が通る。
「ありがとう!」
「ご武運を!」
 かまぼこが返事を返すと同時に、ゴクリも横を通る。
 落ち込む痒いに、右手を上げたゴクリが声をかける。
「大丈夫、まかせて!」
 痒いはゴクリが会長を捕まえてくれることを願い、ハイタッチした。
「さ、行きましょうか」
 捕まったというのに明るく言い放つかまぼこを見て、痒いはこの人には敵わないと思った。

逮捕者:桃、ボコ、千切り、かまぼこ
未逮捕者:砂女、体育祭、ドキ豆、山芋、kys、ハイ、鴉片
残り7人

第3章

 体育館の裏を二人が走っている。
 2メートルほど前を走る砂女を追いかけるゴクリ。
 普段は護衛がついているが、決して弱いわけではない砂女と同じく、ゴクリも親衛隊内では軍師のようなポジションだが、決して運動が苦手だと言うわけではない。
 他の二人の運動能力が高すぎて目立たないだけなのだ。
 そんなゴクリに追いかけられている砂女は内心あせっていた。
(純粋に逃げ切るのは無理か……いや、この差を維持できるかすら怪しいな)
 先ほどから砂女は曲がり角を急に曲がってみたり、わざと通りにくいところに逃げ込む等している。
 だが、その度にゴクリは砂女までの最短ルートを通って追跡してくる。
「考えうる最高を常に行う」某レーサーの格言を座右の銘としているゴクリらしい戦法だった。
(仕方ない……危険だが、このままジリ貧になるよりはマシだな……)
 覚悟を決めた砂女はその場で立ち止まり、振り返った。

(あきらめた?) 
 それがゴクリの予想だった。
 こっちを真っ直ぐ見据えてくる砂女には薄気味悪さを覚えたが、これ以上は体力的に速度を維持できそうに無い。
 そう思い、素直に砂女に向けて右手を伸ばした。
 しかし、その手が砂女の肩に届く直前、手の甲に衝撃を感じた。
 気づくと手は砂女には届かず、自分の左腕に当たりそうになっていた。
(これは、まさか!?)
 思わず驚くゴクリ。
 受け流し。相手の攻撃を必要最低限の動きでかわす剣術の1つで、その他の武術にも似たようなものがある。
 すかさず左手で砂女に触れようとするゴクリ。
 しかし、これもまたあっさりと流される。
 砂女は決して諦めたわけではなかった。
(私のタッチをすべて受け流して体力を消耗させる作戦……!)
 ゴクリの読みは半分当たっていた。
 実際すでに様々な方向からタッチを試みているが、その全てが手のひらに触れることなく受け流されている。
 砂女は最低限の動きしかしていないわけだから、体力の消耗は圧倒的にゴクリのほうが早い。
 しかし、いつ増援が来るかわからないこの状況で、砂女には体力の消耗を待っている余裕はなかった。
「ごめん」
 そう呟いた砂女の声がゴクリの耳に届いたとき、目の前から砂女が消えていた。
 咄嗟に目で追うとその場でしゃがむ砂女がいた。
 丸くなった砂女から繰り出されたのは、するどい蹴りだった。
 しかし、ダメージを与えるための蹴りではない。
 蹴りがゴクリの足首に当ると、ゴクリの足があっさりと地から離れた。
 鮮やかな足払いだった。
 右側に倒される瞬間、ゴクリの脳裏には敗北の2文字が浮かんだ。
 だが、それをすぐに打ち消した。
(このまま倒れたらもう追いつけなくなる、けど……!)
 足払いを決めた砂女はすでに後ろを向いて立ち上がろうとしている。
(これが、最後のチャンス!)
 ゴクリは地面に右手を伸ばした。
 手のひらに衝撃と共に地面の冷たい感触が伝わる。
 右手を曲げ、倒れる衝撃と体の重さを吸収すると、再び右手を勢いよく伸ばした。バネのように。
 少しだが勢いを得た体が向かう方向はもちろん、いまや完全に立ち上がった砂女がいる方向。
 すでに右足を踏み出している砂女の左足めがけ、左手を精一杯伸ばすゴクリ。
 その左手が、砂女の左足首を、掴んだ。
 砂女が振り返ると、そこには地面を這うような、しかし自分の手首をしっかり掴んでいるゴクリの姿があった。
「捕まえ、ました」
 息を切らせたゴクリがそう言うと、砂女は天を仰いだ。
 そして、
「負けたよ。完敗だ」
 自分の足元で大の字になって息を整えようとしているゴクリに声をかけた。

 普通、鬼ごっこというと、鬼が追いかけてそれから逃げる。そんな構図が頭に浮かぶと思う。
 しかし、このケイドロに限ってはそうだとは断定できない。
 現に、グラウンド北部の林のいくつかある入り口の1つ。その傍らに彼女はいる。
 警察チームのぬめぬめ。彼女は体育祭の時間稼ぎを食らったものの、その後はそこにずっと隠れている。
 警察なのに何故隠れているのか。それは勘違いでもなければ、悪ふざけでも無い。
 擬態。これが彼女の作戦だった。
 演劇部の彼女は、メイクと衣装の技術で部に貢献していた。
 日陰にいる彼女の姿は傍から見れば丸い低木にしか見えない。
 彼女は常にポーチにメイク道具と大きな風呂敷を入れて持ち歩いている。
 それらと辺りの枝葉を使い、この完璧な擬態を成功させている。
 最も、足元までは隠しきれず布っぽさが出てしまうため、そこに気を配る必要があるが、彼女にしてみればその程度のカモフラージュは造作も無いことだった。
 そんな完全に風景の一部と化して獲物を狙う彼女の元に、泥棒チームの一人がやってきた。
 ドキ豆だ。
 美術部に所属する彼女は運動があまり得意ではない。
 ゆえにずっと同じ位置に隠れていることが多いのだが、隠れていた場所が見つかりそうになったため、移動中であった。
 そして、この場所に来た。
 次の隠れる場所を探しているのか、辺りを見回すドキ豆だったが、すぐにその場で立ち止まった。
(そのままこっちへ)
 足音から泥棒チームだと判断したぬめぬめは飛び出す準備を始める。
 しかし、足音は近づいてこず、それどころか足で砂を掻くような音が聞こえてきた。
(一体なにを……?)
 ぬめぬめは訝しげに思いながらもまだ飛び出さない。
 相手との距離はおおよそ3m。
 足の速い相手だと逃げられてこれまでの苦労が水の泡になってしまう。
 飛び出したい衝動をこらえ、じっと身を固めていたぬめぬめだったが、やがて足音は遠ざかってしまった。
(何だったのかしら……?)
 そんな疑問を抱きながらもぬめぬめはじっと身を固める。
 それから、泥棒らしき足音が何回か聞こえたが、全員が同じところで立ち止まり、立ち去ってしまった。
 自分のカモフラージュがばれているはずは無いが、何かが変だ。そう思っていると、再び足音が近づいてきた。
 そして、声をかけられた。
「ぬめぬめさん」
 警察チーム、おにちくだった。
 さほど近づかれていないのに自分だとばれたことに驚きつつ、ぬめぬめは擬態を解いて立ち上がった。
 そこには地面を指差すおにちくがいた。
「これ……」
 指差す先を見てみると、何かが地面に書かれている。
 おにちくの隣に行き、再びそれをみる。
 そこには、足で描いたと思われる絵があった。
 絵は簡潔に、しかし、はっきりと目の前の景色が描かれていた。ぬめぬめが擬態していた木を指す矢印と共に。
「な!?」
 思わず驚愕に目を見開くぬめぬめ。
 その隣でおにちくが絵を見て言う。
「この絵は……ドキ豆さんじゃないかしら……?」

 林の中で再び隠れ場所を見つけて隠れているドキ豆。
 その姿を体育祭が発見し、声をかけた。
「よぅ」
「わぁ!? びっくりしたぁー……」
 肩を震わせたドキ豆がゆっくり振り返る。
「悪い悪い。まだ見つかってなかったんだな」
「なんとかね」
「あ、そういやあのグラウンドの絵、あんただろ?」
 体育祭に訊ねられて、ドキ豆は一瞬首を傾げたがすぐに思い出した。
「ああ、うん、そうだよ」
「よく見破ったなー。あの絵が無かったら俺やばかったぜ」
 笑いながら言う体育祭。
 しかし、ドキ豆はなんでもないことのように返す。
「いつもより木が一本多かったからね」
 毎日、校内でスケッチをしている美術部らしい返事だった。
 体育祭が感心していると、林の奥から声が聞こえた。
「いた!」
 パインの声だ。
 その声に反応し、いくつかの足音も遠くから聞こえる。
「まっずい!」
 立って話していた体育祭はすぐさま脱兎のごとく駆け出した。
 しかし、座っていたドキ豆は急な出来事に戸惑ってしまった。
「え、ちょっ、あいたっ」
 転んでしまった。
「いたたた……」
 前髪についた落ち葉を払いながら立ち上がったドキ豆の肩を、パインが慰めるように叩いた。
 その様子を、すでにはるか遠くまで逃げた体育祭が見ている。
「すまん、どんまい」
 そう呟くと、体育祭は再び動き出した。
「ちょっと疲れたし、どこかに隠れるか」
 そして体育祭は林の奥に消えていった。

 走るたびに向かい風を受け、学ランが翻る。
 地に足を着け、走る姿は男子にしか見えない。
 しかし、見た目に反して彼女は女生徒だ。
 泥棒チーム、山芋。
 その男勝りな口調と身体能力から、女子に人気が高い。
 その人気は毎日、かごを用意してから下足箱を開けないといけないところから察することができる。
 そんな彼女が走っている後方、すでに息が上がっている者が追ってくる。
 走るたびに向かい風を受け、スカートが翻る。
 華奢な足でふわふわと浮くように走る姿は女子にしか見えない。
 しかし、彼も見た目に反して男子生徒だ。
 警察チーム、アナ。
 演劇部に所属する彼は、「役作りは日々の生活から」をモットーにしており、それを実践している。
 しかし、大きなたれ目とぷっくりとした唇が目立つ顔立ちは女装によく合っており、背が低いこともあって山芋とは違う意味で女子に人気が高い。
「ねぇ、まってよ~」
 情けない声を上げるアナ。
「待つわけねぇだろ、バカ」
 そんなアナを叱咤するかのように厳しく言い放つ山芋。
 二人は幼いころからの友達である。
 家が近いこともあり、山芋の姉を含めた3人でよく遊んでいた。
 しかし、女二人男一人で遊んでいたため、総じて女の子の遊びが多く、結果、アナが女っぽくなってしまった。
 そして、そんなアナを注意しているうちに山芋も男のようになってしまったのだ。
 その後、アナは数年間演劇を学ぶため海外へ留学した。
 アナが帰って来る日、男らしくなったアナを期待して待っていた山芋は、昔よりもひどくなった女っぽいアナにパンチを一発くれてやったりした。
 こんな関係は今も続いており、外見と性別が正反対というある意味バランスの取れた二人になっている。
「ふぇ……、バカって言わないでよぉ……」
 このようにすぐに泣きそうになるアナ。
 しかし、山芋は気にせず逃げる。
 そんな時、アナがこけた。
「へぶっ」
 砂がこすれる音がし、山芋も思わず立ち止まる。
 ゆっくりと起き上がるがすぐに座り込むアナ。
 見ると膝が赤い。すりむいたのだろう。
「ふぇ、ふぇぇぇぇ……」
 泣き出すアナ。思わず山芋が近づいてくる。
「おい、こけたぐらいで泣くなって」
 山芋が言うがアナは泣き止まない。
「はぁ……、ほら、傷口見せてみろ」
 山芋が患部を見ようとしゃがみ、手を伸ばした。
 その手をアナが掴んだ。
「……なんのつもりだ」
 アナを睨む山芋。
「えへへ……、ほら」
 アナは笑って、ポケットから赤い小瓶を取り出した。
 血のりだ。
「な!? お、おまえ……」
「へへっ、僕が演劇部だってこと、忘れちゃだめだよ」
 そう言うアナの顔は満面の笑みだった。
 山芋はその顔を見てがっくりと肩を落とした。

逮捕者:桃、ボコ、千切り、かまぼこ、砂女、ドキ豆、山芋
未逮捕者:体育祭、kys、ハイ、鴉片
残り4人

第4章

 ヒーロー。
 こんなゲームであってもその概念は存在する。
 牢屋に囚われてる仲間を解放する。それがこのゲームにおけるヒーローだ。
 そして今日も一人、ヒーローの座を狙う者がいた。
 ハイは牢屋の真北、林の木の上に隠れている。
 人間、気を配らなければ上方向には注意が行かないもので、案外見つからず、そして牢屋の様子もよく見える。
 現在、牢屋の中には7人が捕らえられている。
 両チームとも、様々な特技を持つものが多いが、やはり何といっても物を言うのは運動能力だ。
 だが、その運動能力が高い砂女とかまぼこがあっさりと捕まっているという事実は目を疑いたくなる。
 泥棒チームの生き残っている者の中で運動能力が高いのは後は体育祭ぐらいだ。
 彼が捕まれば、ほとんど負けたようなもの。しかし、彼が捕まらなければまだ勝機がある。
 今のうちに誰か一人だけでも救出できれば、勝利はぐっと近づくだろう。
 そう思い、ハイは勝負に出る覚悟を決めた。
 しかし、牢屋には門番が付き物だ。
 現在の門番は二人、ペッシとお粥がその任についている。
 そろそろ終盤にはいる、そうなると相手も守りを固めてくるだろうから、まさに今がチャンスだった。
 ペッシとお粥が辺りを警戒するために牢屋を離れた。
(今だッ!)
 ハイは木から一気に飛び降り、牢屋に向かって走り出した。
 飛び降りる反動で木が騒ぐ。その音を聞き、ペッシとお粥が振り向く。
 そんな二人には目もくれず、一目散にハイは牢屋であるサッカーゴールを目指す。
 ペッシとお粥は警戒で離れすぎていた。二人とも慌てて戻るが、ハイの妨害を出来そうに無い。
 ハイは目の前の牢屋の中を見る。囚われた仲間が手を上げて騒いでいた。
(これで勝ちだ!)
 ハイが意気揚々と牢屋の中に向けて手を伸ばす。
 すると、仲間達の間から割り込むように手が出てきた。
 手はどんどんハイの方に伸びてきて、手首をつかまれた。
 その手の先、仲間達の間から警察チームのさらしがひょっこりと現れた。
「ダイバーダウンッ! なんてね」
 さらしが小さく舌を出す。
 さらしはずっと牢屋の中で泥棒にまぎれて隠れていたのだ。
「だから来ちゃダメっていったのに~」
 千切りが落胆の声を上げる。
 手を上げて騒いでいたのは歓迎でも歓喜でもなく、警告だったらしい。
「やられたぁ~~」
 後一歩でヒーローになれなかったハイは、額に手を当て、天を仰いだ。
 そんな中、携帯の着信音が鳴り響いた。
 全員がポケットに手をあてるが、携帯を取り出したのはさらしだった。
 通話ボタンを押し、うん、うん、と二、三会話をすると携帯をきった。
「林に体育祭君が隠れてるみたいだから、僕も行って来るね」
 そう言って林の方に駆け出した。
 泥棒チームは最後の砦に全てを託すように祈った。

 kysは部室棟裏を走っていた。
 ずっと隠れていたが、先ほど体育祭から電話があり、林に呼び出されたのだ。
 そして向かっている途中で、おにちくに見つかった。
 体育祭に会うまでは捕まるわけにいかない。だが、読書が好きな自分は体力に自信が無い。
 そう判断したkysは部室棟の角を急に曲がった。
 おにちくも当然続くように曲がる。
 しかし、北側の壁沿いにkysの姿は無い。
 向こう側の角も曲がったのかと判断し、おにちくはまっすぐ走っていった。
 だが、kysは角を曲がってすぐの壁に張り付いていた。
「忍法かたたがえ退き……成功です」
 図書館にあった忍法全集を読んでいて良かった。とため息を一つつき、体育祭との待ち合わせ場所へ向かった。
 林の西端、学校の敷地ぎりぎりのところに体育祭はいた。
「おう、見つからずに来てくれたか。よかった」
 木の陰でしゃがんでいる体育祭に近づく。
 体育祭は立ち上がるとおもむろに学ランを脱ぎ、背中のズボンとシャツの間にはさんであった赤い野球帽と一緒に手渡してきた。
「なんです?」
 kysが訊ねる。
「ちょっと走りにくいんでな、預かっておいてもらえるか」
 体育祭はそう言うと軽く準備運動を始めた。
「まさか、今から走るつもりですか?」
 kysが信じられないような顔をする。
 そんなリアクションを気にせず、体育祭は言ってのける。
「あっちにはピザラがいるしな、隠れていても見つかるさ。多分相手のほとんどが今この林に来ているだろう。だからあんたは校舎の方に隠れておいてくれ」
「……いいでしょう。お預かりします」
 kysが体育祭の荷物を預かる。
「サンキュ。じゃ、ちっと行ってくるわ」
「ええ、がんばってくださいです」
 体育祭はkysとハイタッチを交わし、林の奥に消えていった。
 すぐに誰かの声がその方向から上がった。
「さぁ、私もボーっとしてられないですね」
 体育祭の無事を祈り、kysは南へ向けて歩き始めた。

 人間は感覚の83%を視覚に頼っているらしい。
 しかし、彼女はその視覚を自ら遮断して歩いている。
 ピザラ。剣の道を志す彼女には人の気を感じ取ることが出来る。
 人が起きている間に気を消すことはよっぽどの鍛錬を積まなければ不可能だ。
 そんな気を探って、隠れている者を探し出すのが彼女の捜索方法だ。
 目をつぶり、一歩一歩踏みしめるように歩くその姿は、女性とは思えない威圧を感じる。
 しかし、その威圧が一瞬にして消えてしまった。
「ぶっ」
 木の幹に顔をぶつけてしまったのだ。
 鼻の頭を抑え、うずくまるピザラ。
「いつつつ……まだまだ某も修練がたらぬな……」
 えらく古風な口調だが、これが彼女の普通である。
 そんな時、西の方からいたぞ!と声が上がった。
 そしてその声を掻き切るように一つの影が近づいてくる。
「ふむ、やはり足の速さで敵う者はおらんか」
 冷静にピザラは呟き、猛スピードで向かってくる影、体育祭の前に立った。
 それを見て体育祭も急ブレーキをかけて止まる。
 両者の間は3メートルほど、その間を緊張の糸が張り詰める。
 そんな中、あれだけ走ったというのに息の上がっていない体育祭が言う。
「聞いたことがあるぜ。剣の間合いは一刀一足って言うらしいな」
「その通りだが、それが如何いたした?」
「間合いの中なら瞬きぐらいの一瞬で懐に入られる。けど俺達の間は大体3メートル、流石のあんたでも俺は捕まえられない」
「ならば……試してみるか?」
 ピザラは目を細め、刀を抜くように腰に手を当てて体を沈めた。
 その風格につばを飲む体育祭。
 そんな体育祭も、ベース上で盗塁を狙うかのように身を屈めている。
 体育祭の背後からは数人の足音が聞こえる。撒いた警察が追いついてきたのだろう。
 勝負は一瞬、ピザラの一閃を体育祭がかわすかどうかで決まる。
 一秒が数時間にも思える空間の中、体育祭が右へ走り出した。
 その瞬間、ピザラが爆発のような勢いで地面を蹴った。
 ピザラの一足はほとんど瞬間移動のように二人の間を詰め、剣を振るように体育祭の脇腹に手を当てた。
「ま、まじかよ……」
 予想を超えるピザラの一歩に愕然とする体育祭。
 そんな体育祭を尻目に、ピザラが言う。
「このぐらい出来ねば槍使いに勝てぬからな」
 どこまでも武士なピザラであった。

 体育祭が捕まる少し前、kysはグラウンドの南側に移動していた。
 手には体育祭から預かった服と帽子、そしてなかなか立派な大きさの木の枝が握られている。
 木の枝は春日槍のように3又に分かれている。
 kysはその木の枝に体育祭の帽子をかけ、体育館と校舎の間の入り口に立てかけた。牢屋から帽子だけが見えるように。
「さ、これで後は……」
 呟いたkysは、次に携帯を取り出した。

 牢屋の中には8人が捕らえられている。
 その中の一人、砂女の携帯が震えた。画面はkysからの着信を示している。
 砂女は常にマナーモードにしているため、着信音が鳴ることはなかった。
 捕まった泥棒は電話を取らずに切るのがルール。
 砂女が申し訳なさそうに電話を切ろうとする。
 しかし、それより早く電話が切れた。
「?」
 訝しげに思う砂女
「どしたの?」
 その様子に気づいたボコが訊ねる。
「いや……kysさんから電話が……」
 そう言っている間に、再び電話がかかってきた。
 そしてまたすぐに切れた。
「んん?」
 電波の具合が悪いのかとアンテナを確認するが、しっかり3本立っている。
 またかかってきた。が、すぐに切れる。
 携帯を持ち、頭をひねる砂女を見て、他の泥棒も携帯に興味を示す。
 そしてまたかかってきた。しかし、今度はすぐに切れず、数秒置いてから切れた。
「kysちゃん、どうしたんだろ?」
 桃が小声で話す。
「もしかして、何かを伝えようとしているのでは?」
 ドキ豆がそう言った時、かまぼこが気づいた。
「会長。これはもしや……」
 砂女も気づいたらしい、頷いて言葉をつなぐ。
「ああ、これは恐らく、モールス信号だ!」
 そう言っている間にも携帯は震えては止まるを繰り返す。
 早速砂女はkysからのメッセージを解読する。
「静かに……校舎……影……帽子……隠れる……演技……?」
 皆が校舎の方を見る、すぐに山芋がそれを見つけた。
「おい、あれじゃねーか?」
 山芋の指差した先、後者の影に先ほどkysが立てかけた赤い野球帽が見える。
「あの赤い帽子は、体育祭さんの?」
 千切りが彼が帽子をかぶっている所を思い出して言う。
 それを見たハイがメッセージの意味を理解した。
「つまり、あれを体育祭さんが隠れそびれているように見立てて、俺達が隠れるように促す演技をしろ……ってことか?」
「そう言う事かしら……」
 砂女が思考に入る前に、ハイが手を動かし始めた。
「まぁやって見ようぜ。いいか、俺の動きに合わせてくれ」
 演技と聞いて演劇部部長の血が騒いだようだ。
 皆がハイに合わせて小声で叫んでみたり、手を動かし始めた。
 その様子に、見張りのお粥が気づいた。

 帽子を立てかけておいた場所よりも東の校舎の影からkysは牢屋の様子を見ていた。
 何とか自分のメッセージは伝わったようで安堵するが、ここからが勝負だった。
 お粥がその演技に気づき、正体を確かめようと近づいてくる。
 牢屋と帽子をかけた場所の中間あたりの影に隠れているkysは、近づいてきたお粥に見えないように姿を隠し、通り過ぎると同時に再び牢屋の方を見た。
 しかし、その牢屋よりもさらに奥。林の所から予想外の者が歩いてくるのを見つけた。
 ピザラに連行される体育祭だった。
「捕まったんですか!? ええい、なるようになれです!」
 時間は残り5分。体育祭が捕まったなら全員が自分を捕まえに来る。
(そんなのから逃げ切る自信はない、それなら誰かを!)
 そう思ったkysが飛び出すのと、お粥が捕まった体育祭の気づくのはほぼ同時だった。
「kysだ!」
 お粥が飛び出したkysの姿を見て叫ぶ。
 それに合わせて連行されている体育祭のほうを見ていた全員がkysのほうを見た。
 牢屋から声援が聞こえてくる。しかし、それを遮る様にペッシが前に立ちはだかった。
 後ろからはお粥が追いかけてくる。
 kysは自分が体育祭の学ランを持ったまま走っていることに気づいた。
「えい!」
 そしてその学ランを、ペッシに向かって投げた。

「kysだ!」
 お粥の叫び声がして、体育祭がその方向を見た。
 そこには確かに、走ってくるkysの姿があった。
「よーし、よくやった!」
 体育祭はそう叫ぶと、ピザラの制止を振り切り、牢屋に向かって走った。

 宙を舞った学ランは、空気の抵抗を受け、大輪の花が咲くように広がった。
 そしてそのまま、ペッシの顔に振り降りた。
「わっ、ぷ!」
 学ランを振り払うのにてこずるペッシの脇をkysが走り抜けた。
 背後からはお粥がどんどん差を縮めてきている。
(追いつかれる前に、一人だけでも!)
 kysは歯を食いしばり、力を振り絞る。
 ゴールの中から手を伸ばす皆、しかし、少し遠い。
 もう間も無く追いつかれる、必死に手を伸ばして走るkysが諦めて目をつぶる。
 その手に、走ってきてゴールポストを掴んた体育祭の目いっぱい伸ばした手が、応えた。
「よくやった! 後は任せろ!」
 kysが背中をタッチされ、目を開けると、そう言って走り出す体育祭の姿が見えた。
 体育祭は一気に加速、北の林に向かって走り出した。
 その進行方向に、再びピザラが立ちはだかる。
「逃がしはせん!」
「やってみろ!」
 体育祭は速度を緩めることなくピザラに向かう。
 ピザラがそれを迎え撃つように地面を蹴った。
 着地し、体育祭の懐に一閃を繰り出す。
 しかし、そこに体育祭の姿は無かった。
 目を見開くピザラの頭に、手のひらが置かれた。
 ピザラの頭上、頭を中心に半円を描くように体育祭が舞っていた。
 そしてピザラの背後に着地した体育祭は、再び一目散に林へ走り出した。
「しまった……!」
 ピザラも慌てて追いかける。
 しかし、足の速さでは体育祭に敵わず、どんどんと差が広がり、体育祭は林の中に消えてしまった。

 もうすぐ、チャイムが鳴る。
 勝利を確信した体育祭は林の中で立ち止まり、息を吐いた。
 しかし、その手を急に捕まれた。
 その手は足元の丸い低木から、伸びていた。
「な!?」
「残念、私達の勝ちだね」
 低木の様に見える布が解かれ、中からぬめぬめが現れた。
 ドキ豆に見破られた後、性懲りもなくここで擬態していたのだ。
 それに気づかず、体育祭は見事に引っかかってしまった。
 そして、戦いの終焉を告げるチャイムが校内に鳴り響いた。

 林からぬめぬめに連れられて出てきた体育祭。
 その姿に泥棒チームは落胆し、警察チームは歓喜の声をあげた。
「よーし、勝ったぞー!」
 ペッシが勝ちどきを上げる。
 他の者もガッツポーズなどで勝利の喜びを表していた。
 しかし、さらしがそれを制した。
「待って、泥棒10人しかいないんじゃない……?」
 警察チーム全員が驚き、慌てて人数を数え始める。
 泥棒チームも互いを見回す。
 その背後から近づいてくる人物を、ドキ豆が見つけた。
「ねぇ、あれ!」
 全員がドキ豆の指差す方向を見る。
 その先には、目をこすりながら歩いてくる鴉片の姿があった。
「ねぇ~、もう終わった~……?」
 非常に眠そうな声で近づいてくる鴉片。
 普段は参加していない鴉片の存在を、全員が忘れてしまっていた。
 隠れたまま眠ってしまっていたらしい。
 一気に明暗が逆転した。
 警察チームは唖然とし、泥棒チームは鴉片を囲むように集まり、自体が飲み込めず混乱の色を見せる鴉片を胴上げし始めた。
 そして、全員が注意に来たnoeに早く授業に行きなさいと怒られた。

 一方教室では、もぬけの殻になっている教室を見て、学級崩壊のニュースが頭を駆け巡る空気の姿があった。


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