橘ありす&エクストラクラス・ホルダー ◆GO82qGZUNE


「信じられませんね。そんなオカルトありえません」

 街中の一角にあるファーストフード店。その奥まった席で、橘ありすは開口一番にそう断言した。
 そこにいるのはありすと、もう一人。その人物は未だ成人していない少年であり、傍目から見れば二人は兄と妹にも見えるかもしれない。
 対面に座る少年は困ったような表情を浮かべ、所在なさげにありすを見ている。どこか頼りないその所作に、ありすは「はぁ」と息をつくと言葉を続けた。

「……その聖杯戦争というのは、魔術師が英雄を呼び出して戦い合う、というものなんですよね」
「うん、そうなるね」
「そこからおかしいんですよ。わたしは魔術師なんてメルヘンの人間じゃありませんし、それになにより」

 一呼吸置いて、ありすはその言葉を突きつけた。

「あなたが英雄のような大それた人には見えません」

 どやぁと聞こえてきそうなしたり顔でそう言うと、ありすは論破完了とでも言いたげにこちらを見てくる。
 確かにありすの言うことは当たっている。少年の格好はモスグリーンの制服ズボンにYシャツという、夏場の高校生そのままの姿だ。線の細い体格は戦いどころか運動系の部活すらやってなさそうなほどで、これで英雄と言われても信じる者はいないと断言できるだろう。
 だが、それでも。少年がサーヴァントと呼ばれる超常の存在であることに変わりはない。

「それは僕も同じ意見だし、自分のことを英雄だなんて思っちゃいないけど。でも、君も見たでしょ?」
「うっ、それは……」

 少年が言っているのはこの店に来る少し前のことだ。サーヴァントとして現界した少年は突然のことに驚くありすに、霊体化などを披露して自分が普通の人間ではないということを証明している。
 ……普通の人間ではないという事実に、少年の気が少し重くなったのは内緒だ。

「だ、だったらあれはトリックか何かだとすれば!」
「それだと君の頭の中に聖杯戦争の記憶が入ってることには説明がつかないと思うけど」
「うぅ……」

 言葉に詰まり目線を下げるありすを、なおも少年は困った表情で見つめる。少年としては現状を理解してもらいたいだけで、何もありすを言い負かして論破したいわけではないのだ。
 と、ありすは気を取り直したのか、こほんと咳払いしつつ話を進める。

「……では、聖杯戦争というものが本当にあると仮定しましょう」

 先ほどまでの軽い動揺はどこへやら、既にありすの表情は真剣そのものだ。少年もまた同様に真剣に耳を傾ける。

「わたしの頭の中の知識が正しいとすれば、ここから出るには聖杯を手に入れるしかない。そして聖杯は全てのマスターとサーヴァントを倒さないと現れない。そうですね?」
「厳密にはマスターは絶対に倒さなきゃいけないわけじゃないよ。でも、優勝を目指すならどこかで倒す必要が出てくるのは確かだね」
「はい、分かってます。そして倒すということは……殺す、ことになる……んですよね」

 ありすはそこで言いよどむ。
 マスターを殺す。それはつまり人殺しだ。幼い少女であるありすにとっては些か以上に堪えるものだろう。

「わたしは、人を殺したくありません。そうまでして叶えたい願いは持ってません」
「……」
「でも死にたくもありません。殺されたくないです。わたしは、どうしたらいいんでしょうか」

 言葉を切る。ありすは唇を噛み、スカートの裾を掴んで項垂れている。
 殺人。それは現代日本においては禁忌のようなものだ。する側でも、される側でも、それは全く変わらない。
 だがそれはあくまで普通の世界での話だ。こと聖杯戦争においては他者を殺すことだけが唯一の常道であり、ここから脱落するのは聖杯を手にする以外では死ぬ他にない。
 そして眼前の少年はサーヴァントだ。サーヴァントとは願いのために聖杯を欲する。そのために現れるのだと頭の中の知識にある。ならば戦いそのものを否定するありすは彼にとっては邪魔なだけで、何を言われるのか、何をされるのか分かったものではない。
 しかし……

「うん、良かった。安心したよ」
「…………は?」

 少年の返答は、些か以上に予想外であった。

「え、あ、その、つまりわたしは聖杯を取るつもりはないって、そう言ったんですけど……」
「大丈夫、分かってる。死にたくないし殺したくないって気持ちは当然だし、人として普通だと思うよ。うん、君は何も間違ってない」
「……わたしが言うのもなんですけど、あなたはそれでいいんですか? サーヴァントは願いを叶えたいから喚ばれると記憶してるんですが」

 その言葉に、少年はうーんと難しそうな顔を作る。纏う雰囲気は朴訥で、やはり英雄にはさっぱり見えない。
 どこにでもいそうな風貌の、線の細い少年。少年は優しげな笑みを浮かべると、ありすに返答した。

「確かに願いがないと言ったら嘘になるけど、でも君と同じ考えだよ。殺したくないし、殺されたくない。まあ僕は一度死んでるから殺されたくないってほうの気持ちはそんなでもないけど」

 それにね、と少年は付け加える。

「この聖杯戦争自体が、もしかしたら僕の知ってる《怪奇現象》だって可能性もあるんだ。もしそうだとすればなんでも願いの叶う聖杯なんて存在しない。
 今はなんとも言えないけど、そういう推測もできる」

 聖杯自体が、ない?

「それは、一体どういう……?」
「僕は生前、とある《怪奇現象》を解決する立場にいたんだ。その《怪奇現象》は人の持つ悪夢やトラウマを現実のものにしてしまう。そしてそれは、特に大きなものの場合は《童話》の形を取ることがあるんだ。
 アーサー王物語にパルジファルに荒地、聖杯伝説は童話でこそないけど十分に物語としての特性を持ってる。僕の知る《怪奇現象》が今回は聖杯伝説をモチーフにしている可能性だってあり得るんじゃないかって僕は考えてるんだ」

 少年の語ることの全てを、ありすは理解できたわけではない。ありすは同年代の中では頭の回るほうではあるが、しかし少々情報量が多く飲み込みきれない部分があることは確かなのだ。
 しかし分かることがある。聖杯戦争それ自体への懐疑と、少年がそれに対抗する者であるということ。

「仮にこの聖杯戦争がその《怪奇現象》だったら、あなたはそれを解決するんですか?」
「そうだね。もしそうなら、僕は全力でこの《怪奇現象》を止める。今はもう《予言》も《女王》もないけど、それが僕の役目だから」

 そう語る少年の目は真剣そのものだ。先ほどまでの頼りなさは感じられず、彼が真に《怪奇現象》に立ち向かってきたのだと否が応にも理解させられる。

「僕は剣も弓も槍も使えないし、魔術師でもない。でも、それでも僕がこの戦争に呼ばれた理由は分かる。
 まず僕がしなくちゃいけないのはこの聖杯戦争を《理解》することだって、そう思う。それに聖杯を調べてるうちに安全に脱出できる方法も見つかるかもしれないしね」

 僕の考えはこんな感じだけど、君はどう?
 そう尋ねられて、ありすは迷いなく頷く。
 殺す必要のない選択、それは少女にとっては福音のようなものだから。

「……ええ、はい。私もその方針に異論はありません。これからよろしくお願いしますね、【ホルダー】さん」
「うん、こちらこそよろしく、マスター」

 両者は手を取り合い、少女はぎこちなく、少年は屈託なく笑う。
 それはやはり年相応の少女であったし、年相応の少年の姿でもあった。

【クラス】
ホルダー

【真名】
白野蒼衣@断章のグリム

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A++ 幸運D 宝具EX

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
断章:A
精神に根ざす神の悪夢の欠片であり、ホルダー自身のトラウマと混ざり合ったもの。光景のみならず現象をも伴ったフラッシュバックとして具現する。
断章とは言わばアラヤの悪意とそれに伴う膨大な魔力そのものであり、ホルダーの魔力ステータスの高さはこれに由来する。
ホルダーの精神の大部分は神の悪夢の欠片によって占有されているため、他の要素がホルダーの精神に入り込むことができない。
同ランクの対魔力を内包し、またあらゆる精神干渉を9割シャットダウンする。

精神異常:A++
精神を病んでいる。
"普通"という概念に固執し、それ故に異常な状況であっても平静を保っていられる。精神的なスーパーアーマー能力。

【保有スキル】
人間観察:B
人々を観察し、理解する技術。
他者の持つ悪夢を理解し、それに共感する類稀なる感受性・受容性を持つ。

受容体質:C
他者のあるがままを受け入れる。被虐体質とは似て非なるスキル。
第一印象において他者の信用を得やすい。しかしそれは逆に言えば舐められることにも近く、強い敵意や戦意を持つ者と相対した場合は優先的に狙われやすくなる。

直感:D
つねに自身にとって有利な展開を”感じ取る”能力。
ホルダーのそれは戦闘よりも非戦闘時における危機察知、及び他者の精神性をうかがい知るためのものとなっている。

気配詐称:A
ホルダー及びそのマスターの気配をNPCのものに偽装する。
ただし同ランク以上の気配察知や隠蔽無効化スキルには見破られる。また、そうでなくとも他マスターやサーヴァントにホルダーの半径5メートル以内に近づかれた場合は普通にばれる。
ホルダーのマスターはホルダーから1メートル離れた場合このスキルの効果の対象外となる。
ホルダーの持つ自身の普遍性に対する絶対の自負が形になったスキル。

【宝具】
『目醒めのアリス(フラグメント・オブ・ワンダーランド)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
ホルダーの精神に根ざす神の悪夢の欠片。抱えた悪夢の内容は「自分が見捨ててしまった人間が破滅する」。
他人が抱えた悪夢(トラウマに代表される精神的弱点)を理解・共有し、それを拒絶することで悪夢を保持者へと還す。
悪夢を還された者はその悪夢を維持することができず、異形化して最終的には消滅する。あらゆるスキルと宝具による軽減・無効化を受け付けず、復活等も決してできない。まさしく必殺の宝具。
しかし発動するためには相手の抱える悪夢を理解する必要があり、思想・性質といったかなり深い部分までをも知らなければならない。伝聞だけでそれらの条件を果たすことはまず不可能と言っていい。
また、仮にこの悪夢の欠片がホルダーの精神から溢れてしまった場合、泡禍と呼ばれる大災害を引き起こすだろう。

【Weapon】
なし

【人物背景】
自他共に認める"普通"の少年。常に目立たないことを信条とし、平凡というものを愛している。
幼少の頃、幼馴染が異形と化した泡禍に巻き込まれ「断章保持者」となっていたが、本人は高校生になるまでその記憶を無くしていた。その泡禍のトラウマから他人、特に精神を病んだ少女を見捨てることができないという強迫観念に囚われている。
再び巻き込まれた泡禍を通じて断章に目覚めた後は断章保持者として様々な泡禍の解決に奔走していったが、蒼衣の断章によって死ぬことを望む神狩屋の暴走によって全てが崩壊してしまう。
事件そのものは解決するも、後に残ったのは大量の死と不安定になったホルダーの断章のみ。ホルダーはいずれロッジを作ると宣言し、それを受けた仲間とも言うべき少女も了解する。
その後は特に語ることはないだろう。そう遠くない未来において、彼は均衡を崩した自身の断章に呑まれ最期を迎えている。

聖杯戦争においては全盛期、つまり断章が安定していた高校1年生の状態で現界している。

【サーヴァントとしての願い】
泡禍を根絶する、失われた日常を取り戻す、別れた人たちとの再会。
大小に関わらず願いはいくつも持っているが、それを聖杯に託すつもりはない。というか聖杯のことを根本的に信用していない。

【マスター】
橘ありす@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
ないわけではないが、人を殺して聖杯に願うほど大それたものではない。

【weapon】
ごく普通の携帯型タブレット。

【能力・技能】
同年代と比べて勉強はできるほう。アイドルなので身体能力はそれなりに高いか。
特技:論破(自称)

【人物背景】
12歳の小学6年生。自身の日本人らしくない名前にコンプレックスを抱いておりそのせいか無愛想だが、実のところは年相応の感性を持った少女。
大人びているというよりは背伸びしたがる子であり、時折冷めたことを言うことはあるが音楽には力があると信じるなど熱い一面もある。
そのコンプレックスにより知識で壁を作り自分を覆ってしまっているが、作中で自分らしさを考えていくうちに徐々に周りと打ち解けている。

【方針】
まず聖杯そのものについて調べる。その結果がどうあろうと誰かを殺すつもりはない。家に帰りたい。

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最終更新:2015年04月14日 16:57