主人公子・アサシン ◆Ee.E0P6Y2U
私は何時ごろからか「バッチリ」という口癖がついていた。
別に何かきっかけがあった訳でも、特に意味がある訳でも、更に言うなら珍しい訳でもないだろうが
――気づけばそれが口癖になっていた。
「バッチリ」それも快活な口調で言葉尻を高く上げるのが常で、より正確に言うならば「バッチリ!」だろうか。
口癖が往々にしてそうであるように、何も考えないでもその言葉が出てしまう。
別にそれが厭な訳ではない。
意味などさしてないことなど分かっている。
ふとたまに疑問に思うくらいだ。私は何でこういう自分を持ったのだろうかって。
誰かに物を頼まれば「勿論!」と言い
その進捗を効かれれば「バッチリ!」と答える。
勿論言葉に違わず頼まれごとはこなしておく。
そういう自分を被っていると、私は友人に恵まれた。
友人とか繋がりとか、得てしてそういうものだ。
結局役に立つ奴が好かれる――なんて捻くれたことを言うつもりはないけれど
でも、どうすれば繋がりから弾かれないか、最低限の処世術くらいは、自然と身に着けていた。
たぶん私にとってのそれが「バッチリ!」なんだろう。
可愛らしく笑って(自分で言うのも何だがそれなりに容姿は整っていると思う)
その上でウザがられない程度には役に立つ。
それが私が十年程かけて形成した私<ペルソナ>なのだと思う。
ある人は私にリーダーとしての素質があると言った。
何故、と聞き返すと(勿論光栄そうなあるいは馬鹿そうな雰囲気を滲ませることも忘れない)
その人は私が「自分を殺せる奴だから」と言った。
なるほどリーダーとは自分をコントロールできる人間でなくてはならない。
そういう意味で確かに私は向いているのかもしれなかった。
でも、私は「私」を殺している自覚はなかった。
そもそも本当の「私」だなんて、そんなことを考えて生きてきたことがない。
求められれば、私は求められた通りの「私」になる。
そうやって生きてきた。
だから私はよく異性に告白された。
モテた。
好きだと言われ、付き合って欲しいと迫られ、私は大抵は求められた通りに応じた。
同時に数人と付き合うこともあった。
まぁ、言うならば浮気だ。まさしく八方美人だ。
ひどいことのような気もしたが、でも私としては断るよりはそっちの方が喜ばれるな、と思ったからこそだ。
そうやって生きていると、時おり自分がとてもひどい女のような気がしてくる。
後ろめたく――いや正確には後ろめたさを感じるべきだと思った。
でも、すぐに忘れてしまう。それほど気にはならなかった。
それはきっと本質的には私は彼らのこと「どうでもいい」と思っているからだろう。
勿論彼らとの繋がりは本物だ。
決して弄んでいる訳ではない。私は男たちの前では――あるいは女たちの前でも、献身的に仕える。
好きだ好きだと迫られれば、私も好き、大好き、とか返してあげる。
彼らにとって都合のいい「私」であろうとする。
けれど一たびその「私」を脱ぎ捨てれば、「私」でなくなった私は「どうでもいい」と思わざるを得なくなる。
そうやって私は生きてきたから。
だから本当は私は「どうでもいい」のだと思う。
私は本当は、何もかも、誰もかも、「私」でさえも、等しく無価値だと思っている。
敢えて言うのなら、それが本当の「私」だろう。
けれど「どうでもいい」では女は生きていけない。
そんな態度では、女の社会からはすぐに弾き飛ばされる。
だからこそ私は「どうでもいい」を「バッチリ!」に覆い隠したのだろうか。
最も、
生きていくことだって本当は「どうでもいい」のだろうけれど。
――ふとそんなことを思った。
とりとめのない考えだった。
口癖なんて、「私」と同じくらい、意味がないだろうから。
それこそ「どうでもいい」ことだろう。
◇
行こう行こうって手を引かれながら私は街を歩いた。
天真爛漫な娘だった。
何時だって楽しげに笑っていて、何かあればちょっとオーバーに驚いてくれる。
「うんうん、なるほどねえ」
街中の一角でストロベリィシェイク片手に彼女は私の話を聞いてくれた。
さして面白くもない話だろうに、彼女は熱心に聞いてくれる。
私は少しおどおどしながらも、転校前の話をしていた。まぁ話題は何だっていい。
休日に一緒に街で歩いて話しているってことが大事なのだ。
「そーんな体験してたんだ。でもこっちでは私が先輩だからね」
「あは」
「思う存分頼るがいい、ってね」
いい娘だと思う。彼女と学友であってよかったとも思う。
友達が多そうな娘だ。転校したばかりの私にとって、彼女のような人と友達になれるのはありがたい。
――今後の布石にもなるし、ね。
学校とはある意味で戦場である。
孤立した小国は大国に蹂躙されるが定めである。
だから孤立は駄目だ。一人では生存していくことなんてできない。
孤立を避ける為新参者はまず大国におもねることになる。
が、ここで仕えるべき大国を見誤っては駄目だ。一見して仲良く笑ってる大国たちも、裏ではどんな繋がり方をしているか分かったもんじゃない。
別にクラスの実験を握ろうだとか、大国の仲間入りしてやろうとか、そんなことは思わない。
ただ最低限上手く溶け込みたい。
何せ私は今もう一つ“戦場”を抱えている。どっちが重要かといえば、間違いなく後者の“戦場”でできればそちらに注力したいところだった。
だから、無難で穏健派の大国についていきたい。
そういう意味で、目の前のクラスメイトの存在はありがたかった。
人望があり、能力があり、けれどえばらずクラスの中心的存在からは一歩引いたところにいる。
とりあえず彼女についていけば、転校生補正もあって当面の日常は守れそうだった。
こういうしがらみに頭を悩ませると、時たま男がひどく羨ましくなる。
うだうだ言っている冴えない奴らも、その実とても気楽そうだ。
「私も昔は色々転校が多くてね。だから分かるよ、あなたの気持ちも。
思わず叫びたくなっちゃうよね。てんこうー! とか」
明るいし、聞き役も上手だし、彼女は中々の“当たり”であると私は分析する。
ちょっと天然も入っているが、あくまでちょっと。
女の子女の子していると同性から攻撃対象に晒されるものだが、彼女の物言いはその境界を中々に見極めたものだと思う。
勿論、彼女がそんな計算高い娘だとは思っていない。
こういうのは本能的なものだ。
考えずとも、直感的にどう生きるかを識っている。
だって死ぬことは怖い。
動物なら、生きているものなら、それは当然の本能だ。
死にたくない。生きていたい。
勿論、私だってそうだ。
だから私は彼女を頼る。
彼女にくっついていって、一先ず生きる場所を得る。
「――以上が昨夜が起こった事件で、死亡者は……」
どこかからかニュースが飛んできた。
頭上の電光掲示板では真面目くさった顔した誰かが事件の解説をしている。
情報が街には散乱している。けれど多くの人はそれに目を向けない。
だって生きていくのには、あまり意味がないことだから。
ビルが陽光を受け艶々と照り返し、そうしてできた影の下には人々がごった返している。
空疎な言葉とエンジン音とコマーシャリズムにまみれた文言をBGMに、散乱した情報を掻き分けるようにして私たちは歩いている。
ああ、ここが戦場か。
これから始まる“戦争”の舞台。
「怖いなぁ……死ぬのって」
そんなことを考えていたからだろう。
思わずそう口にしてしまって、はっとした私は慌てて口を押えた。
変な娘と思われる訳にはいかない。
聞かれていないことを願うが、
「ん、どうしたの? 何か怖いことでもあった?」
しかし彼女は耳ざとく私の言葉を拾って、変らない調子でそう問いかけてきた。
私はやってしまった、と思いつつも精一杯フォローすべく、
「いやさ、さっきのニュースがちょっと怖くて」
そう取繕った。
……どんなニュースか聞かれたら正直困る。ロクに聞いていなかったし。
「ふうん、まぁ初めての土地だと怖いよね」
幸い彼女は追及することなく流してくれた。
それでその会話は終わった。
さして広がりそうもない話題だ。
私は適当に話題を変え、二人で街を歩き回った。
甘いものを食べて、服を見て回って(お金がないので買いはしない)、適当にデパートなんかをぶらぶらして、
まぁ普通の休日だった。変なことは一切していない。
日常の風景だ。そうするつもりだ。
これで一応私にも友達ができた。人望のある、クラスの人気者と友達になれた。
「じゃあ、今日はそろそろ帰ろうか」
彼女がそう言いだして、休日は終わることになった。
既に空は赤い。夕陽に沈む街は変らず騒々しかったが、しかし徐々に空気が冷たくなっていた。
私は頷いて、それで一緒に帰ることにした。
休日の最後のステップ。ここまでは気を抜く訳にはいかない。
私の家(とされる場所)は街から少し外れたところにある。
彼女の寮も近くにあるので、途中までは一緒に帰って貰うことにした。
電車に乗り、騒然とした街から逃れるように、民家とアパートが立ち並ぶ住宅街まで逃れる。
人は大分少なくなっていた。
涼やかに川が流れる横で、遠くで老人が自転車をこいでいる。
先程まで街にいたこともあってひどく寂しい場所のようにも思えた。
学友と一緒に肩を並べて帰りながら、私は今夜のことを考えていた。
夜――それは“戦争”が始まる時間だ。
日常の基盤は一応築いた。短期間であれば彼女にくっついているだけで十分だろう。
問題は夜のことだが――
――その時、私は気付いた。
私の従者が――サーヴァントが目覚めたことを。
あの好戦的な彼が何時もより早く目覚めてしまった。
止めて、と反射的に念話を送った。
――だって殺そうとしていたから。
隣で歩く少女を。
私の日常の基盤を。
ここで得た私の“繋がり”を――
「止めて、殺すのは――」
反射的に令呪を使おうとする。
あらゆる意味で彼女を殺すのは得策ではない。
誰彼かまわず殺そうとする従者を縛り付けなくてはならない。
出し惜しみせず、もっと早くそう告げておくべきだった。
けれど、間に合わなかった。
少女は――死んでいた。
夕方、人気のない河川敷の近く。
そこで一人の少女が命を落とした。
私だった。
ぶち、ぶち、と肉/私が切れる音がする。
「え?」と思わず声が出た。
その時、既に私の身体は切り裂かれていた。
何で――彼女でなく私が
答えを得ることなく、私の意識は閉じた。
最期に視たのは天真爛漫で役に立つ――そう思っていたあの娘だった。
分からなかった。彼女はどんな顔をしているかまでは……
◇
切って、裂かれ、斬られ――殺された。
転校生の少女であった筈の肉は17分割され、その名を喪った。
それを主人公子は一応の驚きを持って眺めていた。
「えーと、アサシンさん?」
公子は戸惑いつつも、その場に佇む一人の青年へと声をかけた。
彼のその手には大きな飛び出しナイフがあり、その刀身には少女の血が付いている。
服装自体は平凡なものだが、異様なのはその顔だ。
マフラーのような布によって、その目は隠されている。
その布は風に吹かれ、ゆらゆらと揺らめいている。
目を隠し、血の付いたナイフを持つ青年。
目の前には17の肉片に切り裂かれた死体。
言うまでもなく殺人鬼である。
否――正確には殺人貴、と呼ぶべきか。
それが公子の従者であった。
彼が今日友達にばかりの転校生を殺したのは、明白だった。
「何で殺したんですか?」
「マスターが殺されそうになってたからだよ。
彼女、いや正確には彼女のサーヴァントがマスターを襲おうとしていた。
俺じゃあサーヴァントには敵わないだろうから、代わりに彼女を殺した」
アサシンの言葉に公子は目を丸くする。
何と彼女もマスターだったのか。そう伝えるとアサシンは呆れたように、
「……気付いてなかったのか。てっきり俺はマスターが気付いてて付き合ってるものだと」
「全然、一緒に遊んでほしそうだったから。とりあえず誘ってみたの」
頭をかくアサシンを後目に、公子は切り裂かれた少女の死体を見下ろした。
が、既にそこにあるのは肉片でしかなく、そこに「生」の感触を一切見いだすことはできなかった。
……殺人貴に「死」の点を突かれ、存在としての終焉を迎えたのだ。
「……彼女、どうやら人間じゃなかったみたいだ」
「なんと!」
「どんな素性だったのかは分からないけど、俺がすぐに反応できたってことはたぶんね」
そう会話を交わしている内に、肉片は風に吹かれ消えていった。
「死」を迎えたものは、ただ消えるのみだ。
「ねえ」
それを見ながら、公子は尋ねた。
「死ぬってそんなに怖いこと?」
と。
何気ない口調で、これから何を食べようか、とか聞くのと変わらない様子で、公子は尋ねていた。
今しがた死んでしまった少女。
少なくとも彼女は死を恐れていた。
聖杯戦争に赴いた彼女は、死を恐れ生きようとしていた。
でも公子は疑問に思う。
何で彼女は死を恐れていたんだろう。
カタチあるものは、何時かは必ず終わってしまうというのに。
時は待たない。死なんて何時か必ず来てしまうものなのに。
「怖いよ」
公子の純粋な疑問に、殺人貴は迷うことなく答えた。
「怖いさ。死っていうのは……視ているだけで頭がイカレちまうくらい怖いもんだ」
彼の言葉に公子「ふうん」と返すのみだった。
怖いものなのか。
どうでもいいものじゃないのか。
公子はよく分からなかった。
「……それでマスター。聖杯戦争の準備は?」
間を置いてアサシンはそう尋ねてきた。
確認の言葉だった。
公子は今度もまた快活に答えた。
バッチリ!
と。
「うんうん。頑張って優勝しよう」
「……頼むよ。俺にも――願いがある」
アサシンと言葉を交しながら、公子は彼の為に「私」を被った。
優秀な司令官で、願いの為に邁進する。
そんな「私」を。
「よーしじゃあ行こう!」
だから「どうでもいい」だなんて「私」は言わない。
【CLASS】アサシン
【真名】遠野志貴(のちの殺人貴)
【パラメーター】
筋力D+ 耐久E+ 敏捷C+ 魔力E 幸運D 宝具C
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
気配遮断 B
気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
直死の魔眼 C-
魔眼の中で最高位。モノの「死」を視る眼。
このスキルを利用した攻撃に成功した場合、与えたダメージは回復不能になる。
スキル・宝具を「殺す」も可能だが、ランクが高くなるほど攻撃の成功率は落ちる。
彼のものは元来備えていた淨眼が死に触れて「死」を視るように発展したもの。
本来の魔眼ではない為、使用には常にリスクがある。
病弱:A
天性の打たれ弱さ、虚弱体質。
保有者は、あらゆる行動時に急激なステータス低下のリスクを伴うようになる、デメリットスキル。
発生確率はそれほど高くないが、戦闘時に発動した場合のリスクは計り知れない。
七夜:C
その血脈。人外に対する攻撃衝動。
死徒のような人外を相手取る際、有利な判定を得ることができる。
【宝具】
『直視の魔眼・決死の一撃(ラストアーク・サーキットブレイク)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
直死の魔眼による一撃必殺。
物に内包された「死」を見切り、その点を突くことにより死を齎す。
英霊といえど終わりなきものはない。
カタチができてしまった時点でそれは終わりを――「死」を内包する。
「死」を見切ったモノを「殺す」。
如何なる防御も意味もなさない上、蘇生・転生すら不可能となる。
「直死の魔眼」スキルにより完全に「死」を見切った存在に対してのみ発動可能。
【人物背景】
出典は「月姫2」……ではなく「真月譚月姫(漫画版)」
本名を「七夜志貴」といい、退魔の暗殺者「七夜一族」唯一の生き残り。
七夜襲撃事件の際、襲撃を指揮した遠野家当主・遠野槙久によって、長男「シキ」と名前の読みが同じという気まぐれで生かされ、養子となった。
その後、真祖の姫アルクェイドと出会い、吸血鬼たちとの戦いに身を投じることになる。
……のちにアルクェイドの護衛として、彼女とともにブリュンスタッド城に留まることになる。
二十七祖第六位・リィゾ=バール・シュトラウトは好敵手に当たる。
この時期になると、魔眼の能力が高まり過ぎたため、魔眼殺しを以てしても、死の線が視えてしまうようになっている。
このため、普段は両目に包帯を巻いて封印するようになった。
「殺人貴」になる前(「真月譚月姫(漫画版)」のラストシーン)の状態で召喚された。
「七つ夜」
愛用するナイフ。
七夜に伝わる宝刀で宝刀とは言うが、値打ち物ではない。
年代物だが暗殺用らしく飛び出しナイフ。そんな構造でありながら、死徒の攻撃を受け止めるほどに頑丈。
なお、現実世界で「七ツ夜」を持ち歩いた場合、普通に銃刀法違反。
【基本戦術、方針、運用法】
ステータス的にも普通にサーヴァントと戦えば敗ける。
一応敵が人外(=人間由来の英霊でない)ならば有利に戦えるが、基本的には隠密に徹するべき。
隠れ潜み、死を見切った敵を「直死の魔眼」で一撃必殺が最もスマートだが、あまりに格の高い英霊と戦えば自滅してしまう。
継戦能力も高いとはいえないので、ここぞというところまでは戦闘は避けたいところ。
【マスター】
主人 公子(女主人公)@ペルソナ3p
【能力・技能】
ワイルドに目覚め得る可能性を持つが時期が本編開始前なので使えない。
世界の破滅を招来する"デス"を体内に封印している器。
10年前のシャドウ研究所爆発事故の際に巻き込まれ、両親が死に、アイギスによって暴走するデスの器とされた。
【人物背景】
『ペルソナ3p』において追加された女主人公。通称ハム子。
男主人公と打って変わって明るい性格で、選択肢もノリノリなものが多い。
ただしその背景は変わっておらず、その身に“デス”を宿していることは変らない。
男主人公と同様プレイによっては何股もします。
【方針】
優勝する。
最終更新:2015年04月18日 16:36